私は最近、つくづく「人間一番大事なのは外見だ」と思うのである。貌(かお)がイイと云う事が、何より大切なことだと感じるのだ。 本作の主人公、山岡鉄舟という御仁をはじめ、幕末・明治の英傑たちの多くは真影を残している。その貌の良さ、男(女)っぷりのよさには驚くばかりである。鉄舟さんの写真もウィキペディアほか、数多くネット上に掲載されているのでご覧頂きたい。紋付袴姿で、刀を手挟んだ容貌は、まさしくサムライである。また、晩年の髷を落とし、髯を蓄えた姿には、不思議と洗練されたジェントルマン的な要素も感じる。単に整った顔なのではない。何か今にもこちらに語りかけてきそうな、深みのある貌なのだ。対峙する者にオーラを発する人物の大きさを感じさせる人間っぷりの良さがあるのだ。
本作はその鉄舟の魅力を余すところ無く描いていて、一陣の涼風が身体の内を駆け抜けて行くような爽快感に満ちている。剣術と禅と放蕩に明け暮れる鉄舟の一直線の生き方が、小事に汲々とする平成の小市民に問いかけるモノは甚だデカい…。鉄舟のさんに、貧弱なわが肩にビシリと警策を与えられた心持だ…。 ことに特筆すべき場面は、官軍の東征大総督参謀の任にあった西郷さんとの会見のシーンである。それは、幕府だとか官軍だとか、自らの立場や面子など全く問題とせず、日本国と民草を思い、江戸を戦禍から救った男たちの静かな叙事詩である。ふたりの包み込むような笑顔に私自身が対面したような、清々しい読後感に酔いしれた。
130年ほど前に、こうした痛快な男たちが舵をとっていたこの国の、今を治める政治家や自衛隊の元幕僚などの貌を目にするにつけ、前述の通り思わずにはいられないのだ。
人間、一番大事なのは、容貌(かお)だと…。命もいらず名もいらず_(上)幕末篇
剣豪物は数多あるが、武士の魂と云われる刀剣を此処まで取り上げたものには初めての出会い。 そしてまた、本筋を離れていく(金に走る者。固有の物、私物化に拘る者など)人間の本性的なものを覗かせて、作者の試みが伝わってきた。 余談ながらカバー・イラストの村上氏のものにヨワイ。
発売日に早速購入し、あっという間に読了。 画家であり一門の長である狩野永徳が、戦乱の目茶苦茶な環境の中で、その人生に真摯に向き合って悩みもだえる姿をたいへんシンプルに描いています。 永徳自身の私小説か?と思われるほどです。 著者山本兼一氏の創作活動への執念と努力が作品の中に垣間見られ、いたく感動しました。 当然、星5つです。 悶々と苦悩する主人公の姿が圧倒的な迫力で、悪く云えばくどいほどの分量で表現されていますので、その読後感はかなり個人差が出る作品かもしれません。 しかし、創作活動で日々苦労されている方々には是非お勧めしたい作品です。 千利休、岡部又衛門をはじめ、著者がこれまで描いてきた歴史人物が登場してきますので、楽しんでも読めました。 永徳のライバル等伯を描いて直木賞を受賞された阿部龍太郎さんの作品もですが、昔の画家をテーマにしたもの最近増えてきましたね。
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