僕は他にも島田虎之介の漫画を読んだことがあるが、どの作品も読み終えてからそのまま2回目の読みに突入させられてしまう。物語が巧妙に練り上げられていて、その情報量は1回読んだだけでは処理仕切れない。しかし、それらは作者の自己満足の為に詰め込まれたような鬱陶しいものではない。作品の中を生きる登場人物達の人生を、俯瞰的な視点と語りすぎない自然な台詞を通して描く描写は、街に設置された幾つもの定点カメラの視点で見ている様で(僕はこれをcomic2.0と呼ぶことにした!)、多少の読み取りの困難を感じさせはするが、それ以上に、登場人物達の日常、つまりは彼らの人生の深淵を圧倒的に読み手の眼前に登場させるのだ。味わったことのない読後感は著者が漫画界に於ける希有な才能であることを物語っている。
超寡作の島田虎之介。たまたま調べたらラッキーなことにちょうど新作が出たところだった。この『ダニー・ボーイ』も前3作に負けず劣らずの傑作だった。 のちにトニー賞にもノミネートされる伊藤幸男という日本人が主人公だ。根っからの歌い手であるサチオは幼少の頃からその歌唱力で周りの人たちを驚かせ、幸せを振りまいていた。そんなサチオの一生をサチオに関わった人たちのかすかな記憶を元に振り返っていく構成となっている。 かすかに記憶に残っているというこの塩梅がいいんだよな。名前や実体は忘れてしまったんだけど、彼の歌声と彼と関わったときの幸せな記憶だけが身体に刻み込まれている。 各話のタイトルは全て曲名となっており、巻末にシマトラの曲目解説が付いている。2回目に読んだ時には、この解説を元に各話ごとに「YouTube」で曲を再生しながら読んでみた。これもまた趣があって良かったね。
はっきり言ってしまえば内容なんてない(筋があるわけではなし、ドラマがあるわけでもなし、一台のピアノにまつわるエピソードをいくつか作って寄せ集め、こういうことがありましたって見せているだけですから)。 扱っているスケールに感心するぐらいでしょう。
ただ、そのスケールをみせる意義は確実にある。 ワタシのいない時と場所の存在を島田虎之介作品は教えてくれる。 ある出来事を切り取るだけである通常の物語からは得ることの出来ない感覚。
宇宙は全てを受け入れているんだな〜。
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