夫婦(めおと)茶碗 真面目な畳職人・義助が、2年前から酒を呑んでは暴れ、給金を家に入れなくなった。困り果てたおなかは、子ども4人を連れて、会所へと身を寄せる。 ぼたん雪 武家に見初められ、嫁いだおつるであったが、夫・横瀬左金吾の姉が、毎度横瀬家に金子の無心に訪れ、その内状は火の車であった。それを補うため、実家の徳次の元へと無心をするおつる。 どんつく 町内の鼻つまみ者だった浜次が、は組の頭取に拾われ更生したものの、火事場での喧嘩で寄場送りとなり、3年の月日が流れていた。戻った浜次は、頭取の居候となり、女房・子どもを迎えにいくどころか、会おうともしない。 女丈夫(じょじょうふ) 若い時分から甲州屋を仕切り、男勝りのおみさは、亭主の新三郎に対しても辛辣であり、奉公人の前で新三郎を叱咤するなど日常であった。 灸花(やいとばな) 童女を勾引し悪戯をした挙げ句に殺害するといった傷ましい事件が起きた。 会所にも町触が回り、住民は気が気ではない。だが、それよりも下手人はみっちょ(道助)ではないかと自信番に届け出た者がいると言う。 しかもそれは、みっちょの母親・おえんの幼馴染みで、親しい間柄の畳屋の女房・おこうであった。 高砂(たかさご) 大伝馬町の畳屋・備後屋が盗賊に襲われ、隠居の老夫婦と小僧ひとりを除き皆殺し、そして火を放たれる惨い事件が起きた。 ほのぼのとした今作中、一番胸に響いたのは、「灸花」の道助の件である。「なぜか道助の言葉が又兵衛の胸に滲みる。それが不思議でならない」。そんな又兵衛同様に我が胸にも道助の純真さが滲みた第一章であった。 また、「どんつく」の浜次の不器用な生き方も胸が熱くなる思いで読んだ。是非とも続編にて、幸せになってもらいたいものだ。
私も皆さんと同意見です。 表題含めた6作品の中で2作目の【千寿庵つれづれ】と 5作目の【妻恋村から】は同主人公のシリーズ作品です。 主人公・浮風は正式な尼僧としての資格はないがその人柄の良さと 今でいう霊能力でたくさんの生者死者たちから慕われています。 成仏できない死者たちにあわれみを感じましたが 最後は死者たちも浮風に諭されて納得成仏するのでホッとします。 不思議で楽しいお話しでした。
最終作【律儀な男】はなんともやりきれない悲しさを感じました。 現代の都会にはなくなってしまった正に義理と人情のお話です。 胸が詰まりました。
全体を通して素敵な作品集です。 宇江佐ファンのみならず時代小説初心者の方でも楽しめると思います。
火事で家を失った伊三次とお文は10年後、伊与太のほかにお吉という娘を授かっていた。 彼らの気がかりは、息子伊与太の行く末だった。一方、不破龍之進は自分の母親のことで 悩み、芸妓屋に入り浸っていた。自分の進む道を模索する龍之進・・・。表題作「時を刻む 時計」を含む6編を収録。髪結い伊三次捕物余話シリーズ9。
読んで驚いたのは、前作から10年の月日が流れていたことだった。伊三次も40代になり、 龍之進も20代後半になっていた。あまりにも月日が飛びすぎではないのかと思ったが、 内容は読み応えがあった。月日は人を成長させるが、同時に老いさせていく。伊三次、お文、 不破友之進などは、読んでいて「ずいぶん年を重ねた・・・。」としみじみ思った。一方で、 八丁堀純情派と呼ばれた龍之進などの成長には目を見張るものがあった。確実に世代交代が 来ようとしていることを強く感じる。また、家族愛や親子愛もしっとりと描かれているので、 温もりも感じた。人情味あふれ心に染み入る作品だった
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