FACE 314期﹣聖衣神話10周年 紀念新品公開
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「訳者あとがき」が指摘するように、事実の記載が非常に主観的で時には著しく歪んでいるようなので、まるごとは信じられません。とはいえ、シェパードは、アメリカの再発見を試みた“レビュー”の思想を体現する、ふたつのクライマックスを明らかにしています。
ひとつは、まったく有名でない、メイン州ウォーターヴィルでの、「長いあいだディランの音楽を聞くだけで、ディランの写真を見たことのない盲目の男」をはじめとする「金のない」人々の前で行った家族的なライヴ。もうひとつは、あまりに有名なマジソン・スクエア・ガーデンでのルービン・カーター支援コンサート。
このふたつのエピソードを読むと、なぜシェパードがディランに入り込みすぎ、記述が主観的になるのかについておおよそ見当がつきます。すなわち、たぶん、ライヴ・パフォーマー・ディランも、劇作家・シェパードも、メディア(テレビ、新聞、レコード)を介さないオーディエンスとの接触、そしてマイノリティ、冤罪者に対する共鳴と理解に帰結する理想的な“アメリカ”を、誰に教えられることもなくそして改めて発見するまでもなく、旅の前からあらかじめ自分の内にもっています。シェパードは、その“アメリカ”を文学的に確認することだけに自分の筆を賭けたのでしょう。その賭けの試みは大成功です。
なお、“レビュー”の客観的事実について知りたい方々は、ボブ・ディランの二枚組CD『ローリング・サンダー・レビュー』のライナー・ノーツ執筆者であるラリー・スローマンが1978年に出版した“On the Road with Bob Dylan”(未訳)を読むとよいでしょう。