「商品市場」にフォーカスしており、「商品」(例えばスポット取引って何?とかフォワードって何?)についての説明はそれほど期待しない方が良い。逆に「商品市場」の仕組みとか、組織、歴史、それぞれの市場の特徴などについてはまとめられている。また「順ざや」「建玉」と言った業界としては基本的なことだが初心者には不慣れな言葉についても説明がされている。図解などもあるが、キーワードを太文字にするなどはされておらず、あくまでも文庫本チックな書き方がされている。
カネボウの以前のキャッチフレーズ「For beautiful human life」は、この本に述べられている、実質的創業者の武藤山治氏が『女工哀史』にあったような劣悪かつ非人道的な就労環境からの開放を目指したポリシーに根ざしていたと言える。 これほどまでに社会的使命を負い、それを意識した経営を進めていたはずのカネボウがなぜ「経営不在」に陥ってしまったのか。 それは、同じくこの本の中に記されている、打ち合わせの席に伊藤淳二・元会長兼社長がひょっこり現れたときにそれまでぞんざいな態度で客に接していたカネボウ社員が急に直立不動の姿勢になったというエピソードにも現れている。 つまり、社会的意義を忘れたカネボウは、社員総出で内向けの努力に腐心するような体質になってしまっていたのだ。 今「社内顧客」というコトバがもっともらしく使われるケースがあるが、そういうことをやっている企業はカネボウと同じ轍を踏む可能性を大いに持っていると言える。そうした企業は、今すぐに意識を改め、真の顧客本位の姿勢へと回帰することが強く求められているということを、この本を読んで理解すべきだろう。
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