「生れ出づる悩み」は、主人公は職業作家でありながら思うような作品を生み出せず悩む(=題名)。一方、偶然に知り合った青年は漁師を続けながら絵を描いているという境遇だが、その才能と執念は驚くべきものがある。
芸術を志す者が誰でも感じるであろう、己の才能への疑念と、他者の才能に対する羨望と嫉妬を素直に描いた作品で、その素直さで逆に印象に残る。
「小さき者へ」は息子へのメッセージだが、文学として昇華されているか否かは疑問。ただし、いずれも作者が自身の感情をそのまま表現している事にある種の感慨を覚える。私小説とは異なるのだが、作者を取り巻く環境を率直に表現して読者の共感を呼ぶ作品集。
「え!あの有島先生がこんな小説を!」と言う様な内容です。 主人公は美貌と知性だけではなく経済的にも恵まれて育った女性です。 まさに人生に祝福されて生まれ育った女性が奔放に生きた末に悲しい最期を遂げると言う劇的な変転を描いた小説です。 主人公の心理描写は細密画のように精緻を極め、まさに非凡な作者だけが出来る内容です。 主人公の性格はヒステリー性と言えると思います。後半部から終わりまではヒステリー症状の臨床記録と言っても良いほど精緻な描写です。一方、異性関係においては妖婦、魔性の女と言えるでしょう。 人間は社会、他人からの力だけではなく自らの欲望によって破滅する儚い(はかない)存在です。また自由であればあるだけ人生の選択肢が増え迷路に迷い込む愚かな存在でもあります。 作者はヒステリー性の針のような性格の主人公を通して人間の頼りない存在基盤を描いていると思いました。
|