ブラームスの作品120の1・2を聴く人のほとんどがクラリネットをソロパートと認識しているだろう。私もそうだった。20年以上クラリネットの音色に馴染んできてヴィオラ版をこのCDで初めて知った。1番冒頭、伴奏が一息ついてソロパートが始まったときの違和感は、砂糖と間違えて塩を入れたコーヒーを飲んだときのびっくり度に匹敵した(個人的かつ卑近な例ですみません)。でも、しばらく我慢して聴いていると意外といけるんではないかと思えるようになった。さらに、何度も聴いているうちに2番はヴィオラの方が良いのではないかとすら思えてきた。 残念ながら本家クラリネット版にはライスターやシュトルツマンを初めとする名盤がごろごろしていて、このCDは発売からそれほど経っていないのにすでに廃盤で入手も難しい(私はまだ円高の頃にドイツのアマゾンから新品を調達した)が、3000円程度より安ければ買って気に入らなくても諦めがつくのではないかと思う。 ご存知の通りヴェロニカはハーゲン兄弟の長子ではないけど、コンサートではハーゲン四重奏団の要の役割を果たしているように見える。彼女のソロ活動について詳しくはないが、現代最高のヴィオリストの一人ではなかろうか。四重奏のリーダー役に注力しているからか、ヴィオラ人気がそれほど高くないからか、兄ルーカスや弟クレメンスのようにソロ活動に活発でないのが少し残念でもある。兄・弟の楽器と違って華やかさには欠けるものの、明るめの音色はソロにも向いていると思う。ベートーヴェン四重奏団のドルジーニンはこれがヴィオラかと思うほど明るい音を出すと思うのだが、ショスタコーヴィチから献呈された作品147にはぴったりの音色だと思う。老作曲家が明るいヴィオラを好むのかどうかは知らぬが、聴くごとにヴェロニカ・ハーゲンのヴィオラ・リサイタルでいつかこのブラームスとショスタコーヴィチのソナタを聴きたい思いが募る。そういうCDでもある。
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