岩波文庫の紹介文は誤解を生みかねない。読んでみればその快適なテンポに引き込まれ、晴ればれとした気持で読了できると思う。漢字が多く、小難しい印象を持つが、一度声を出して読んでみて欲しい。日本語が再発見できる。公正で曇りなき精神と求道の心のぶつかり合いに、健全な近代精神の可能性を見ることができるのではないか。
職人の気持ち、主人公ほか関わる人物がそれぞれ、人の気持ちがわかる人物がたくさん登場してほっとする小説だと思います。
秋原組作品の佇まいは嫌いではない。本当はもっとメジャー系作品を手掛けてもよさそうなものだが、日本文学+デジタル撮影にこだわる姿勢が買える。本作もガッツ石松の他、竹脇無我、小倉一郎、久遠さやかといったメジャー系俳優を集めて作られており、最後までストレスなく観ることができた。しかし、である。あまりに照明・音声がなっておらず、これにはちょっとビックリしたぞ(笑)。ガッツ石松と娘役・飯田圭織の焼き場でのシーンではライティングが主演に届かず、物凄いことになっていたり、小倉一郎との対決シーンでも影が出まくりで・・・。音声も拾えないセリフがあるなど、これが2007年度の作品か?と疑うレベルだったのは残念だった。予算が少ないことと、きちんとシャシンを仕上げることは別である。青森ロケでコストをかけすぎたのかも知れないが、ここはキチンとして欲しかったなあ。俳優では石松の迫力が気に入ったのと、久遠さやかのイヤな女役が光った。久遠は「深呼吸の必要」と並ぶベストアクトだと思う。特典映像には舞台挨拶と石松らのインタビューを収録。竹脇無我は衣装を付けたままでインタビューに答えていたが、齢を重ねた風格があるなあ。千利休の三船を彷彿させる演技も見事だった。俳優陣の頑張りは十分わかるが、内容は不十分であり、総合的には星3つ。
妖しいほどの出来栄えの釣竿を海中の死人から手にした釣人と舟の船頭にまつわる怪談「幻談」、激しい雨中、一宿を請うた山寺の草庵の室壁に掛かった中国の細密な画に、晩生の学生の運命転機を見取った「観画談」、鼎の骨董を巡って虚々実々の消息が微に入り細に亘って繰り広げられる「骨董」、魔術、魔法を歴史の知識を縦横無尽に駆使して語られる「魔法修行者」、川魚が釣れず、母親を亡くして継母につれなくされている少年の心に同情をよせて綴られる「ろ(漢字がない)声」。 出色はやはり「幻談」「観画談」か。口語のリズムに乗って気持ちよく運ばれる物語に、我々はいつのまにやら没入してしまう。自由闊達というか、変幻自在というかその筆運びは余裕綽々で、どこへ我々を連れ去ろうとしているのかという、あの引き込みの力は圧倒的だ。ひとつひとつのイメージの喚起力の深さ、描写の的確さは目を瞠るものがある。露伴を受け継ぐ小説家は現在誰がいるだろうかと、とぼんやり考えてしまう。 生の執着の深さと同時に生を解き放つ自由さを達観したタオイスト、露伴は決して古びることはあるまい。
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