著者の取材力にはただただ感服です。綿密な取材と確かな文章力がもたらす迫力は、他に類書がありません。 事件発生から被疑者の取り調べまで、実に密度の高い記述であり、現場の凄まじい緊張感がびしびしと伝わってきます。
とにかくお薦めします。
新米刑事・如月塔子を主人公とするシリーズの第四作目である。シリーズも進んで如月塔子の成長ぶりが読みどころであろう。 マンモス団地で殺人事件が発生した。十一係は捜査を開始したが、ところが犯人は“一日にひとりずつ東京都民を殺害する、止めたければ2億円を用意しろ・・・”と警視庁を脅迫してきたのである。その言葉の通り、都内では次々と殺人事件が発生する・・・都民1300万人の誰が狙われるか分からないという恐るべき脅迫犯罪に捜査陣は翻弄される。警視庁の威信をかけた動きとは・・・著者の詳細な捜査描写と奇抜で読者の意表をつく仕掛けの構想がビビットである。警察小説ならではの面白さか。2億円の受け渡しの成否のサスペンス、手に汗握る場面の連続に・・・読者は眠れず・・・一気読みは必至でしょう。
事件は三つ取り上げつつ、警視庁捜査一課の役割、捜査の進め方、ホシを浮上させる技術、取調べなどのテーマが取り上げられている。
小説やドラマの「刑事モノ」のおかげで、私たちは「刑事」について、それなりに知ったつもりになっているが、実際のところはどうなのか。 そんな疑問を明らかにしてくれるノンフィクションである。
取調官とホシとの独特な“信頼関係”あっての自白、など大変興味深い。 冤罪防止一辺倒の取調べ可視化議論の前に、こういった現状を踏まえることが必要だろう。
取調べでの会話など、どう取材したのだろうか。 克明な記述に圧巻されるが、詳細すぎて読むのに根気が必要だった。
あとがきで書かれている、「かつてくたびれた背広姿の殺人刑事は、日本人の勤勉さと実直さを映し出していた」こと、そして「事件捜査の大事な時期にデートする若手刑事がいる」という問題意識には首肯した。
足利事件を契機に、科学捜査も見直しを迫られることとなった。 警察、司法は大きな転換期にある。 次回作には、そのあたりに応える内容となることを期待したい。
|