「蝶々夫人」をカラスの歌で聴いてしまうと、他の歌手が受け入れられなくなる。今もそうだ。他のどんな歌手が、この歌劇を演じることができるというのだ。 狂気を演じているのではなく、狂気そのもの。 前半に偉大な伏線がはられている。無邪気な少女時代の出会いと恋。やがて子供が生まれ、父親との時間を楽しむ幸せな日々。すべて悲劇の伏線になるのだけど。カラスは、あまりにも無邪気に歌う。
後半は暗転する。ピンカートンを信じ、知人の忠告も退け、ピンカートンの裏切りを知り、子と決別し、死を選ぶ。この暗転の部分になって、前半の無邪気さがよみがえり、痛ましいまでに胸をえぐられる。かつて二人で幸福に合唱した旋律を、今度は、不安をはらみ一人で歌う。 こんな恐ろしい伏線を、歌だけで、はれますか。歌手のみなさん。 CDなので映像はない。しかも輸入版を買ったので英文だけ。英語は読めない。私は、「蝶々夫人」の日本語訳を一度も読んでないので、物語の概略を知るだけだ。「蝶々夫人」に歌と音だけで接したわけだ。今も歌詞はわからない。
カラスの歌を聴いていると、狂気を感じる。声が胸に迫り、歌を聴いているだけで、悲しみが胸をえぐる。平静でいられない。死んでしまいたいほどだ。
今も、このCDのジャケットを見ると、音楽を聴かなくても涙があふれる。決死で歌ったマリアカラス。歌劇などの通俗曲にかけては、天才的なカラヤンの指揮。すべてが充実した歌劇の録音。それがこの1枚だ。
リブレット日本語対訳は付属していませんが、「蝶々夫人 対訳」で検索すると、無料の対訳がみつかります。
【配役】 ミレッラ・フレーニ(S) クリスタ・ルートヴィヒ(MS) ルチアーノ・パヴァロッティ,ミシェル・セネシャル(T) ロバート・カーンズ,マリウス・リンツラー(BR)ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ウィーン国立歌劇場合唱団
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