誰もいなくなった街を少女はひとり彷徨っていた。
発表当初は「いい設定見つけたなぁ」と、その世界観にばかり注目していたけれど、それ以上にストーリー展開が秀逸だった。今まで読んできた施川作品の中で最も好きだと言ってもいい。あの「がんばれ!!酢めし疑獄」から、こんな作品を描くところまで来たのか。感慨深いものがある。
序盤は設定の変わった「サナギさん」というような印象。様々な物事に対しツッコミを入れていくスタイル、シンプルでトリッキーなギャグセンスは健在である。何度も声に出して笑った。 そういったギャグ漫画としての読みやすさもありつつも、ところどころで一人ぼっちの寂しさを掻き立てる描写が挟み込まれると、途端に泣きそうになる。この涙が今までの施川作品の比ではないほど切ない。 やがて少女は一羽のフラミンゴと出会う。今度は二人きりの世界。そこからは笑いも賑やかになるが、涙を誘う場面もまた増え、かつてないスケールとバランスで笑いあり涙ありのストーリーが描かれている。ラストシーンは、もう純粋に素晴らしかった。
また、意図的ではないかもしれないが、東日本大震災以後の姿も少なからず見え隠れしていることにも注目したい。あの出来事に対する施川ユウキの答えと呼ぶのは、さすがに大袈裟かもしれないけれど、未来に向けてのメッセージが込められているようにも思えてくる。そこも含め名作。 もし、同時発売の3作でどれを読むか迷っている人がいたら、私は迷わずこの「オンノジ」を推す。 絶望的な世界の中で少女はどんな奇蹟に出会うのか。是非とも読んで欲しい。
いつだって読書はハードルが高い。だから読書で得た高尚っぽい知識はひけらかしたくなるし、だから教養ありげな読書家の振る舞いは鼻につく。
まったく読書家じゃないくせに読書家のカッコいいところだけを身に付けたがる主人公のバーナード嬢や、SFファンをこじらせすぎて独自の読書理論を確立してしまった神林しおり――彼女たちの「読書あるある」は、書を読むとはどういうことかという本質を考えさせてくれる。 いや、そんな小難しい理屈はどうでもいいのかも知れない。少なくとも確かなことは、彼女たちは本が好きで、そしてとても楽しそうだ。
読書家ぶっている人にも、そうでない人にもぜひおススメしたい。もちろんガチの読書家にも。
サナギさんで確立された世界観を継承しつつ、 作者らしい独特の視点から日常を眺めるスタンスは 決して他所では見られない深い味を秘めた魅力に満ちている。
絵柄ではなく、文字で惹きつけるのが施川流の魅力の一つで、 漫画があまり好きじゃない、漫画なんて…と思っている人にこそ ぜひ一読してもらいたい作品。 世の中にはこういう切り口から漫画を描ける人がいることを 多くの人に知ってもらいたい。 普段の何気ない日常に、不思議なスパイスが加わることだろう。 私たちが過ごしている日常は、かくも面白みに満ち満ちているのだ。 独特の発想に、不思議な快感を覚えずにはいられないだろう。
ただ、今回はサナギさんと違い月刊誌の連載で 「12月生まれの少年」の初出は2005年12月である。 2巻が出るとすると、順調に連載したとしても 同ボリュームになるには2年後(2010年)の秋ということになる。 ファンとしては末永く待ちたいところだ…。
1年ぶり、待望の2巻。
内容は相変わらず鋭い。
巻頭カラー6ページは、もずく以上にキャラ立ちまくりの“名無し猫”が主役。
彼女のあけすけな物言いはクールでクレバー(あと笑い)だが、ラストひとコマでちょっと切なくなる。
いい!!実にいいぞ、ね子!!
しかし、今回は1巻に輪をかけて言葉の世界を縦横無尽に遊戯してる感が強い。
もずくはホントに犬か!?
飼い主サチのほがらか天然っぷりが、さらにもずくの哲学思考(妄想?)癖を際立たせる。
どう考えても彼女は、もずくの10分の1ほどにも知識や語彙といったものは豊富ではないはずだ。
しかし、もずくがあれこれ「頭イイ語彙」を駆使して我々に語りかけるからこそ、サチの純粋無垢なたった一言の輝きが、これまた際立って見えるのだろう。
お互いがお互いを際立たせるこの幸福な互助関係。
羨ましい限りです。
今巻のおススメは、第39話「イグドラシル」。
だから、ホントに犬か!?!?っての(笑)
数百ページの哲学書にも匹敵する驚異の6ページだ。
いつも通りの施川作品です。会話の間や演出も同じ感じで、安心感があります。この人の作品にハズレはありません。 また本作ではシナリオに毎回どんでん返しがあって読みごたえがありました。
あと主人公の花子さんのキャラ設定は近年稀にみる良質なものになってます。
|