まだ、チョン・キョンファが10代の頃に録音した1枚。チャイコフスキーのVn協奏曲では、高音部分において技術的な未熟がみられるが、それを上回るものがカデンツァを中心にみられ、アンドレ・プレヴィンがうまく彼女をサポートしているといえる。
かつてのキョンファからは絶対出てこなかった雑音が入る。かつての人間離れした、音楽以外の何物も存在しないようなバイオリンではない。しかしそこには深みがあり、テクニック的なことをうんぬんする以上に心を打つ人間の奏でる響きがある。言うなれば、シゲティがずっとうまくなったものと言えるだろうか。
随分前になるが、アムステルダムで、ティンシュテット指揮のロイヤル・コンセルトヘヴォーをバックに、豪快なベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲をキョンファ・チョンが演奏、そのブラボーの嵐の聴衆の中に居た。この偉大なヴァイオリニストのみならず、指揮・ピアニストのミュンフン、チェロのミュンファの世界的なチョン・トリオを育てた母が語るチョン・ファミリーの物語がこの本。 決して豊かとは言えない家庭環境にありながら、それも国際化には程遠いアジアの小国韓国から、子供の為・教育の為なら万難を排して邁進し、子供7人を奨学金を得てアメリカのトップ・クラスの学校に留学させて大成させた韓国夫人の波乱万丈の人生と必死になって苦難に立ち向かう子供達の生き様が、実に爽やかで激しく胸を打つ。 ミュンフンの為に、たった250ドルのピアノが買えなくて、付けで買って月賦が払えなくて取り上げられかけたこと。ヴァイオリンを人に借りながらコンクールに優勝したキョンファに4万5千ドルのストラディバリウスを買う決心をしたが、資金の工面が付かず借りた5千ドル小切手を持って楽器店の周りを一ヶ月もぐるぐる回ったり――それに、大成してからもシアトルの母の韓国料理店コリアハウスで嬉々として手伝う兄弟姉妹の姿など、多くの泣き笑いの人生は感動なしには読めない。 圧巻は、優勝はしたがキョンファがリーベントリット・コンクールで、当時ニューヨークの興業・音楽界を支配していたアイザック・スターンやユダヤグループに、陰陽に妨害された話。フィラデルフィアで、ユダヤ人の反ソ運動の為の妨害で、レニングラード・フィルの演奏会で、客席の片側半分に全く観客が入って居ないステージを経験したのでサモアリナンと思った。
チョン・キョンファのファンならば,聞き逃せないもの。情念の叫びを聞くことができます。
日本版は廃盤になってしまったようですが、2007年末に没後10年を記念して発売された4枚組みDVDボックスセットSir Georg Solti: the Maestro (ASIN: B000U05IF2)の一部としてまだ入手可能です。Sir Georg Solti: the Maestroは輸入版ですがリージョンフリーなので日本のDVDプレーヤーやパソコンでも問題なく再生できます。また価格も4枚セットで6000円ほどです。 数少ないチョン・キョンファの映像作品です。ファンの方には是非お勧めです。
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