高校生の時この映画を映画館でみた。 学校さぼって毎日通った。 映画館で映画を繰り返し観るなんて初めての経験だったけど、映画館を出るとさっきまで天使だった私に気が付く。 そうか、私天使だったんだ! 最高の映画です。
ロードムービーの最大の特徴は、開放された空間と、閉塞した心理描写のコントラスト、これにつきます。 ベンダースの作品は概ねこの雰囲気に支配されていて、本人も実際にそういう行動をする人です。 特に初期のものはまさにそうした作品ばかりで、本作がその集大成のような完成度の高いものとなっています。 こうこうこうで、と、説明を加えてしまうと何のことはないお話なのですが、たとえるなら一幅の名画という所でしょうか。 ゆっくりと何度も鑑賞するたび発見があったり、見る側の心理状態でぜんぜん違う感じ方をしたりします。 がちがちに作り込んでしまうのではなく、無駄を省いた脚本で徐々にこちらに染み込んできます。 登場人物の心理を直接表現することを極力抑え、「状況のモザイク!」といえる構成で、最後まで観終わって初めて見えてくることがたくさんあります。 こうした表現方法はこの作品でほぼ完成したのでしょう、以後ベンダース作品はより難しい「心理のモザイク」といえる作品へと進んで行きます。
人間の心のつぶやきというのは詩的だ。と言うか詩は心の声そのもの。 とにかく、心の声が聞こえてくる、その設定だけでこんな人間ドラマを 作ってしまう発想がまず素晴らしい。 さらに、人生は楽しいことばかりじゃない。むしろ辛いことの方が多い。 なのに天使は、セーフティで永遠の存在ではなく人間になることを望む。 そして誰かを愛することで、その視界はにわかに色彩を帯びる。 こんなにも静かでそしてこれほどまでに力強い、人間として生きること への賛美! この作品が愛される理由が、静かに、しかしながらくっきり感じ取れる。 この良さをいつまでも感じ続けられる人間でありたいと思った。名作。
史上最高の映像詩。それはダミエルとカシエル、2人の対照的な天使の視点で描かれるベルリンの壁崩壊以前のベルリンの人と風景が織り成す叙事詩だ。もう20年以上前の映画か。モノクロ映像ゆえか、時間の流れの中で決して色褪せない普遍的な価値を持つ、映画芸術の一つの極北。
時間の流れからは超越して、人の心を自在に読み取りながら、ただ人の営みを記録をしつづけるだけの霊的存在としての天使。彼等の姿は純粋さをもった子供にしか見えない。そんな天使の宿命に逆らって、サーカスで踊る一人の女性に恋をし、有限の時間の中に降りて行こうとする天使ダミエル。それを友情のうちに見守りながら、自らは彼岸にとどまる天使カシエル。そしてダニエルを導く優しき堕天使ピーター・フォーク。遂にダミエルが天使であることをやめたとき、彼等にはどのような運命が待ち受けていたのか。
この映画はそんな彼等の、交叉する眼差しの映画である。天使としての超越的な眼差しで俯瞰される歴史の流れ、現代の様相、日常生活を送る市民の心の悲哀、そして天使の視点が人間の視点になったときに初めて気付く(そう、ここで映像は唐突にカラーになる)、色彩の美しさと現実のもどかしさ。この人間と天使の間を自在に行き来する多様な眼差しをもって、ベルリンという都市の重層的な構造をあますことなく描いて行く。一つの都市を描いた映画は数あれど、名所旧跡を描かずに、これほどまでにその都市の内的深遠を探った映像はあまり例を見ないのではないか。
映像の特徴的な主題が眼差しなら、エクリチュール(文体)の特徴は詩だろうか。ダミエルが語る天使の詩、老人ホメロスが語る人間の詩、名も無き市民達のモノローグ、相互に独立しながらも、強い印象を残して、映像に独自の味付けをしていく。この映画にはダイアローグは数える程しか無い、基本一人語りが重なって作られていく、それはとある現代音楽の構造を思い起こさせ、そして又私達に、モノローグの美しさ、詩の強さをはっきりと印象づける。
”詩”と書いて”うた”と読ませる日本語のタイトルも、映画の本質を捉えていて秀逸。”歌”というにはあまりに儚く静かで、かといってただの”詩”には終わらない情熱を秘めたこの詩。鑑賞していると、いつまでもこのポエジーに漂っていたい、そんな気持ちにさせられる。DVD発売でそんな贅沢も可能になった。私の人生、いったいこの映画と何時間を過ごしてきただろうか。
この映画を見ていると、行った事のないベルリンが、まるで心の故郷のような懐かしさをもって感じてられてくるから不思議だ。その奇跡のような完成度の高さに5点満点献上。本作の続編やアメリカ版もあるが、こちらはとりあげる価値無し。そう、本当によい詩は、ただ一つだけあればそれでよいのだ。
映画ベルリン・天使の詩を見られた方の多くは、サウンドがこの映画のクオリティをより高めていることにお気づきだと思う。残念なのは、この傑作CDが廃盤なのか中古でしか手に入りにくいことだ。しかも日本版はかなりの値段。値段で悩んでおられる方は、「Wings Of Desire (1987 Film) [Soundtrack, Import, From US]」とアマゾンで検索して輸入版を購入されるのがよいかもしれない。1000円程度で購入することができます。
私は、あの天使が恋する女性がトレーラーハウスの中でかけるNick Cave & The Bad Seedsのレコード(14曲目:The Carny)のかっこよさにすっかり魅了されてしまいました。なんとも禍々しいというか閉塞感たっぷりのサウンド。映画ラストのライヴのシーンに再び、彼らの曲(18曲目:From her To eternity)が流れます。
歌だけでなく、映画に登場する詩もあの低音ボイスで収録されていたり、チェロによる陰鬱なメロディなど、せつなく暗いサウンドが心にしっとり沁みてくる素晴らしいサントラです。
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