北陸自動車道下り・親不知～糸魚川ＩＣ間にてサン・ジャックへの道

北陸自動車道下り・親不知～糸魚川ＩＣ間にて

サン・ジャックへの道 [DVD]

劇場で見た評価です。

遺産を貰うためにフランスのル・ピュイからスペインのサンディアゴ・デ・コンポステラまで歩く三兄弟を含む「俗物たちが浄化されていく」物語です。
ある意味では物語制作上教科書通りの作品とも言えるかもしれませんが、それが逆に心地よいまでに徹底されているために、見続けることにまったく苦痛を感じない作品となっています。
いくつか気になる点、必要かな？と思う描写、また足りないんじゃないかなと思うことなどがありましたが、お話的にも全体として素敵にまとまっていると思います。

なんと言っても俳優陣、特に男性俳優陣がすばらしい。
上記三兄弟の病弱な兄ピエールを演じるアルチュス・ド・パンゲルンの表現の幅、三兄弟のアル中の弟クロードを演じるジャン＝ピエール・ダルッサンの、仙人のようになっていく佇まい。他にもツアーガイド・ギイやアラブ人移民の青年二人など、男性俳優陣はみなすばらしい空気を作っています。
女性俳優としては、三兄弟の真ん中、反権力的高校教師のクララ役を演じたミュリエル・ロバンがすばらしい。表情が時と共に変わっていく、その丁寧さが光ります。
残念ながら若い女の子二人には特に魅力的なものを感じなかったのですが、それを差し引いてもこれだけすばらしい俳優を九人も集めて1500キロも旅をさせるのですから、すばらしい作品に成らないわけがないのです。

とにかく癒されたい人にオススメのこの映画です。

星の旅人たち [DVD]

エミリオ・エステベス（チャーリー・シーンのお兄さん）が実の父、マーティーン・シーンを起用して撮影したロードムービー。
エミリオ・エステベスもところどころ出演しています。

エミリオ・エステベス扮するダニエルは自由を愛する男で、聖地サンティアゴ・コンポステーラへの巡礼の旅に徒歩で出かけるわけですが、運悪くその初日で嵐に遭い、命を落とすことに。
アメリカからはるばる息子の遺体を引き取りにスペインまでやってくるその父親トムですが、息子が何をしようとしていたのかを理解するために、息子が辿ろうとしていたのと同じルートを通って聖地まで向かう決意をします。
スポーツと言えばゴルフ程度しかせず、しかも高齢のトムにとっては無茶な行程と言えますが、今までそりのあわなかった息子と理解し合う機会を永遠に失ってしまった、という心の穴を埋めるにはそうするしかないわけです。

途中、ダイエットのために巡礼の旅に出た食いしん坊のヨスト、訳あり禁煙女のサラ、雰囲気を読めないライターのジャックと出会い、彼らと旅を共にすることに。
トムはただひとり、息子を理解しようと行程を急ぎますが、他の巡礼者は途中途中で風景や町並みを楽しみながら歩き続けます。
ほかの巡礼者は、トムのその様子が理解できず、トムもまた彼らを理解しようとせず、また理解してもらおうとしないわけです。
トムにとっては、この旅は自分探しのためでも楽しみのためでもなく、息子を理解しなかった自分に対する後悔と、自分に対するやり場の無い怒りをどこかに転嫁するための旅なのですね。
途中、いくつかのポイントで息子の遺灰を撒きながら旅を続けるトムですが、それでも心の傷や、自分に対する自責の念は消えません。

そうこうしているうちにとうとうトラブルに巻き込まれてしまうトムですが、それらを乗り越える過程で、少しづつですが、彼らや出会った人々に心を開いてゆきます。

巡礼を行い、目的地にたどり着くことで息子を理解できる、そう考えてただ旅路を急ぎ、目的地にたどり着くことだけを目的にしていたトムですが、すこしづつ変化が現れます。
目的地にたどり着くのは結果でしか無く、重要なのは目的地にたどり着くまでに何を見て、何を経験したか、それが息子を理解することにつながるのではないか、と思い始めるわけですね。

目的地にたどり着いた後も、トムは途中出会ったジプシーに言われた「海」に向かいます。
当初、「目的地に着きさえすれば」と考えていたトムですが、目的地に着いたあとも釈然としない思いは残り、なぜか海に向かわなくてはならない、と思い始めます。

トムが残る遺灰を海に投げ終えたとき、天からの息子の声が「父さん、やり遂げたね」と語りかけますが、それがトムにとっても、息子にとっても救いとなるのですね。
その瞬間、トムは息子が何をしたかったのか、やっと知ることができるわけです。

道中出会う人はいずれも（すべてがそうではないですが）いい人ばかりで、かたくなに心を開くことを拒むトムの心が少しづつほぐれてゆく様は見事であり、見終わったあとに「この映画に出会えてよかったなあ」と思わせる一本です。