宮部作品の中では必ずしも評価が高くない作品。 だってしょうがないよね。『火車』だの『理由』だの『模倣犯』だの『クロスファイア』だの…があるわけだから。 でもでもでも これすごいよ。面白い。 お得意の独立した短編形式。 これが後になって複雑にそれぞれが伏線となってからむのは『理由』なんかでもおなじみのパターン。こちらでもやはり見事。 でもってもう一つお得意のかわった語り部の使用 こちらは『パーフェクトブルー』の語り部 犬の「マサ」が有名。 で 今回はなんと 財布(笑) そのせいか最初は若干読みにくいんだけど そこでやめたあんた 損するよ。 章が変わるごとに財布が変わるから 慣れるまで2ページくらいは我慢。 そうすれば極上のエンタメが楽しめる。 著者の作品によく出てくる好少年も登場するし、これまたお得意の 善意だけど無知な人が悪の片棒を知らず知らずのうちに担がされる可能性もちらっと。 物証第一主義にもちくりと警告。 半分終わって「やれやれもう終わりかな」と思ったところでまだまだこれでもかとばかりに二転三転。 さらに大ドンデン ありもしない個性を認められたがる奴を見事に描く。 やっぱりこの人 見えてるよなあ。 社会も時代も。 何度でも読めそう。 お勧め。
WOWOWは近年、精力的に長編サスペンスを製作している。もとから映画に重きを置く放送局なので、ある意味でどの局よりも製作への意欲は強いはずだ。タイアップでお腹いっぱい、というスタイルも採らず、紳士的な作りがよい。本作は「理由」並にたくさんの実力派俳優が出演しているが、谷村美月と田中要次のパートがいまいち意味がわからなかったり(全体への影響という意味で)、いくつかの不満点はある。でも全体的にはのめり込める面白さがあった。サブテーマとしてTVレポーターの追っかけが描かれているが、最近はこのテのネタもみなウェブで確認し、議論するようになってきた。「模倣犯」もそうだが、20年後に観たら「あー、この時代はTVワイドでこういうのをやっていたんだよなあ」というノスタルジーに変わっているかも。TVの追っかけシーンが主軸の作品もこれが最後になるかもしれない。殺人予告もWebで公開される時代だしね。その意味でも興味深い作品であった。
島田荘司氏推薦という文字を裏に見つけたので、デビュー作から順に読もうと思って最初に手に取りました。 なので作者の他の作品との比較はできませんのでご容赦を。
よく指摘されていることですがとにかくトリックがわかりやすいです。 ヘタしたら見取り図出した段階で「こういうトリックならできるかも」と考えてしまうようなレベル。 巻末の推薦文で島田荘司氏にすぐに見破られたというのも納得な話です。
そしてトリックの成立まで偶然に支えられた要素が多すぎる。(アクシデントという意味ではなく) もしあの人がこう動いたら?あの人がぜんぜん違う動きをしたら? これだけでトリックの一部が破綻します。 偶然は一回ならいいでしょう。二回起これば作為を感じ、三回起これば殺人現場に作者のペンが見えます。
なかなか読みやすく、分量の割にサクサク読めたのは、文章の力があるということなのでしょう。 信濃譲二のキャラもなんとなく気に入りました。 巻末の島田荘司氏の推薦文は歌野晶午氏の成り立ちがわかり興味深いです。 とりあえず白い家と葉桜はすでに購入済みなので、すぐにでもぜひ読んでみたいと思っています。
どうしてこういう発想というか、着目点が出てくるのか。 財布が事件を語ってゆくという、そんな奇抜な設定も面白いが、ただ奇をてらっているわけでない事に、読み続けてゆくと気が付く。 「そこまで、現場に肉薄しながら、なぜもう少し突っ込めないんだ! あっ、そうか、相手は財布だったんだっけ・・・」という具合。 孫の手が欲しくなるような、そんな焦燥感にも似た感情に押し流されて、読みふけってしまいますが、ご安心あれ。 ちゃんと最後には、すっきりさせてくれますよ。
|