「蟹工船」と並ぶ、プロレタリア文学の名著が、このように手軽に文庫本で読めるようになって嬉しい限りです。小林多喜二も徳永直も、日本の文学史上忘すれてはならない人物です。特に、彼らの作品は時代を超えて、不公平な社会への鋭い告発と共に、働く者たちに勇気と希望を与えるものです。本書、「太陽のない街」も、労働争議と、権力の弾圧によるその挫折を描いたものですが、困難と厳しい試練の中でも希望を見出して行こうとする「力」を感じさせる作品です。 ある意味で、格差と貧困が蔓延しつつある現代の労働環境は、「太陽のない街」と同じように暗闇が覆っているような状況です。「太陽のない街」、それはまさに現代の街の象徴です。しかし、光が暗闇の中で輝くように、この作品には、まさに暗闇の中で輝く光があります。その光が何であるのかをぜひ読み取って欲しいと思います。
原作も映画も暗くシリアスです。初めてフィルムセンターで観た時はよくわかりませんでした。次に観たのは山本監督追悼の連続上映興行の時です。やや生硬な感じはありますが、大正から昭和に移ろうとする日本の都市の一断面の描写は流石ですし、興味を覚えました。これが後年「戦争と人間」などにも生かされるのだなと思いました。
なお、資料に大川社長役として滝沢修の名前が記載されていますが、出演しておらず実際には清水将夫が演じております。何かの都合で変わったのでしょう。同じ劇団民藝の幹部ですから。
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