料理の上手な人は、レシピ本など無くても、手元に材料さえあれば、ホイホイといとも簡単にとても美味しい料理を作れますよね。こういう料理名人は無意識に料理の「原理」を悟っています(本人も気がついていない)。この料理の「原理」を分かりやすく、かつ面白く「読みもの」として解説してくれてあるのが、この本なのです。 下手な料理入門書よりも、本書を読む方がずっと料理名人になれること、間違いありません。著者の軽妙洒脱な文体もとても魅力的で、一気に読めてしまいます。このような陰の料理本を見つけるのは大変楽しいものですが、「昼休みの友」(獣医さんが書いた本で料理ネタが多い)と共にオススメできます。
玉村さんの前著「隠居志願」を読んで、「随分枯れた心境になってきたな?どこか体の具合でも悪いのかな?」と心配したが、この本を読んで、「あれ!元気じゃない・・。」と一安心した。
「ワインバレー」では、千曲川流域沿岸を日本一のワイナリー集積地にする夢が熱く語られている。
「すでにあるワイナリーがゆりかごとなって、次の世代のワイナリーを育てていく、この繋がりをもっと強くたしかなものにしていくことができれば、東御(とうみ)市を中心とした千曲川流域沿岸に、たくさんのワイナリーができる日が来るに違いありません。」(同書P6)。
これまでの、日本のワインつくりの歴史、世界のワインつくりの変遷が概説してあり、この夢が決して突飛ではないことが、わかる。インド産のワイン(白も赤もなぜかスパイシーな香りがあってカレーに合う!)、タイ産のワイン、中国産のワインについても紹介してある。世界中でワインをつくりだしているんだ・・。一方、フランスはワインをあまり飲まなくなってきている(第四章)など興味深い考察もある。
「シルクからワインへ」の章では、桑畑だったところがブドウ畑に向いているという事実に着目。「いまは使われなくなった桑山を探せば、ヴィンヤードの適地はもっとたくさん見つかるでしょう。」(同書p225)との指摘は納得性がある。まあ、次の世代につながる夢のあるプロジェクトで今後が楽しみですね・・。
長野県東御市で、「ヴィラデストガーデンファームアンドワイナリー」を経営。そこには、▽外国野菜の栽培農場、▽ブドウを栽培し、その果実でワインを醸造するワイナリー、▽それらの作物を料理として出すカフェがあり、著者は全てのオーナーです。同時に、エッセイスト、画家でもあります。何とも多面的な活躍ですが、その活動は、野菜、とりわけ外国野菜への関心を、中心に大きな円を描いているようです。
様々な外国に旅しているのに驚きます。戦火に晒される前の優雅なベイルートの情景さえあります。旅は、観光よりも、地元のレストランで、地元ワインを飲みながら、伝統料理を美味しく頂くグルメ旅。気になった料理は、何日も通って食べ、現地で料理を学ぶ意欲は旺盛です。メインが魚肉でも、著者の目は、その付け合せの野菜に向かい、こだわりは、使われている野菜です。しかし、珍しい現地料理のグルメ体験談に終わっているわけではありません。帰国後、その野菜の素性を調べ、原産地や地球上の伝播経路を調査。著者の活動は、書斎でのこのような机上調査論では終りません。その野菜の種を、現地で調達。自分の農場で育てて、実際に食べて、カフェの料理に出しています。著者の活動は、野菜を手元で育て収穫し料理する実作業でも終わりません。それらの体験を、文章にまとめて、本書のような出版物にしています。その上、絵も描いています。著者のこのなんともグローバルな活動に、驚かされます。
本書を構成する世界野菜譚で、一番面白かったのは、野菜が、思わぬところで地球規模の歴史上の出来事に、絡んでいる話です。ナポレオンが、対英戦争で、糖分の確保が大事だと考えて、北でも採れる甜菜糖の大量生産を企画したことなど、思いもかけなかった話でした。野菜は思わぬ所で、歴史の流れの契機になっているようです。つい「ヘーエ」と言ってしまう魅惑的な逸話が満載です。
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