菅浩江さんの本を読むのは初めてですが表紙に惹かれ購入しました。 とてもいい買い物をしました。 どの短編もそれぞれ異なる味わいをもち印象深いです。
冒頭収録の「雨の檻」には新井素子の「チグリスとユーフラテス」を連想しました。 森奈津子からエロをぬいて新井素子を足した感じの端正で清冽な文章に魅せられます。 正直表題作は主人公の女子大生の心理にちょっと添いかねたのですが (気持ちはわかるけどコリン姫に対する意地悪な視点とかあんまり感心しないなあ…と。 でもそれを含めてアーダの最後の台詞に繋がるとすれば伏線の張り方抜群に上手いです)
「ブルーフライト」のアヤが切実に自分の将来像を模索する姿や理想を希求する姿、 試験管ベビーとして生まれた己の在り方に悩む姿はその青さひたむきさ故真摯に胸に迫ります。
個人的に「月かげの古謡」がお気入りです。 この中では唯一正統派なファンタジーなのですが、めくるめく流麗な文章に酔い 神秘的な雰囲気を存分に堪能できる読後感は至福。 「狂い女の編み物のように乱雑に絡み合う枝」の一文など奇怪な夜の森の情景が鮮やかに目に浮かぶ。
湖上の花から夜毎生まれる美しき女との謎めく問答が まわりすべてを敵と断じ力のみを信奉する男にもたらしたものとは?
「統治とは何か?」 答えはたった一言です。 とても奥が深い。
私の好きな菅さんの作品です。この本は2007年刊行ですが、元々1989年発表作品ということで、菅さんの最初の長編小説ということになります。ということで、確かに菅さん作品らしさがでつつ、初々しさを感じるような気もします。内容はSFとファンタジーが融合したような感じの作品となっています。読みやすいのでお暇なときに読んでみてはいかがでしょうか。
軌道上に小惑星をもってきて、そこをアカデミックなユートピアにする、という設定はとても面白いと思います。 それに、近未来、もしかしたら現実にそんなものができるかもしれない、と思うとどきどきします。 ただ、重要なキーワードになっている「直接接続者」の説明が不足しているために、どの程度特殊な 存在なのかが今ひとつよく解らず、主人公の「エリート性」というのもやっぱりいまいちよく解りません。 さらに、各部署の説明もされてはいますが、具体的な描写が殆どないに等しいので、脳内補完するしかありません。 全体としては面白いんですが……最後を「ラブソング」で締めるなら、もう少し美和子の描写が欲しかった なと思います。それも、あまり彼女を顧みなかった主人公の視点からすれば当然かもしれませんが。 SF好き、設定から自分で想像して膨らますのが好きな人にはいいと思いますが、本の中で完結して欲しい 人には未消化な印象が残ってしまうような気がします。
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