昨今の電子マネーの登場により、貨幣社会がいつまで続くのだろうか思うのは私だけではないでしょう。このような状況下においても我が国の貨幣史になくてはならないのは和銅開珎であることに異論を唱える人はいないでしょう。 和銅開珎は和銅元年(708)に銀銭が発行され数カ月遅れて銅銭が発行されました。しかし、それにさきだつ25年前「今より以後、必ず銅銭を用い、銀銭を用いることなかれ」(日本書紀)との記述があることをめぐり古来より多くの論評がなされてきました。 最近、飛鳥池遺跡で発見された富本銭は、その鋳造年が少なくとも和銅元年以前であることが明らかになったことによりこの疑問に終止符を打ったのです。 また、日本には古来より「無文銀銭」と呼ばれる銀片が日本各地で発見されてきました。それは重さや大きさがほぼ同一であることから。著者はこの銀を上述の日本書紀に記述された銀銭に違いないと結論しました。 また、富本銭、和銅開珎銅銭は、既に流通していたこの無文銀銭を銅銭に置き換えることを狙ったものと考察しています。 ちなみに交換レートーは、富本銭発行当時(無文銀銭一文=富本銭一文)、和銅開珎発行当時(無文銀銭一文=和銅開珎銀銭一文=和銅開珎銅銭一文)であったと推理しています。(ただし、無文銀銭一文の重量>和銅開珎銀銭一文の重量であることに注意) 本書は考古学と史実に基づき多角的に考察しており、またその論理が明解であり大変好感のもてる本だと思います。考古学や古銭に感心のある方にお勧めの書です。
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