本書は先日逝去された「はだしのゲン」原作者中沢啓治氏の自伝である。 この作品は1987年に出版された「ヒロシマの空白 中沢家始末記」に加筆した増補改訂版的なものであり、私は先に2012年に出版された「はだしのゲンわたしの遺書」を読んでしまっていたので、順番が逆になってしまった。 被爆体験など内容は重複するものの、記憶が新鮮だったせいか、こちらのほうが格段に詳細であり、その強烈な内容は気分が悪くなるほどに生々しい。 「はだしのゲン」が実話を基にした作品で歴史的資料としての価値を持つ作品であることも解る。
挿絵は中沢氏自身による「はだしのゲン風(?)」書き下ろしである。 中沢氏自身がまだ若かったこともあり、当時の体制に対する批判、原爆や戦争、当時の社会、戦争責任に対する怒りのエネルギーにはすさまじいものが感じられる。 中沢氏の父親は反戦活動を行い特高警察に連行されるなど、当時の社会情勢を考えればあらゆる意味で「すごい人」だったようだ。 戦後の飢餓や赤貧生活についても生々しく、被爆者手帳や原爆病院などができたのは戦後かなりたってからで、それまではなんの救済の手もなかったと知り驚くばかりです。
漫画家として独り立ちするまでの苦労話についても書かれているが、S出版社やN編集長など主に伏字となっている。時間が経過したこともあるのか「遺書」では実名となっている。 「はだしのゲン」が「荒野の少年イサム」「ど根性ガエル」「侍ジャイアンツ」「トイレット博士」などの漫画といっしょに掲載されていたというのがいまだに信じられない。 いかに戦争がいやなものか、核兵器が残酷なものかこの作品が社会に与えた影響は計り知れない。
「はだしのゲン」でもそうだったが、戦時下の抑圧や窮乏状態におけるギスギスした人間関係や貧富の格差、いじめ、弱者に対する世間の冷たさ、陰湿さ、底意地の悪さといったものは程度の差こそあれ現在の閉塞感に包まれた日本に共通したものを感じさせられる。
1973年に連載開始された“はだしのゲン”の作者の中沢啓治さんのインタビューを中心に映像が進められていきます。 広島平和記念資料館に収蔵されている原画、原爆ドーム、 当時住んでいた家、作品の舞台になっている所に訪れながら 投下直後の記憶を語られていきます。 現在73歳でおられますが、100歳迄生命(い)きて、是れからは映像作品に依ってメッセージしていきたいと最後に仰られておりました。 “中岡元”の事実上の分身であられる中沢啓治さんがとても身近に感じる事のできる映像作品でした。
本書はサイズが大きく分厚いエディションです。
小型タウンページのイメージです。
全3巻に単行本全10巻が収まっています。
原子爆弾が投下された広島の惨状と、被爆された方々のその後の生き様が描かれています。
平時には友好的な隣人が非常時に鬼と化す。
情け容赦ない世間の厳しさ、残酷さ。
極限状態下での奇麗事では済まされない人間の本能、心理、行動が生々しく描かれます。
初版配布時に小学2年生だった自分は学校の図書館で本書に出会い衝撃を受けました。
何より放射能というものの恐ろしさに震えました。
ゆっくりと確実に命を蝕むその毒性は消滅までに2万年かかるといわれます。
その後、ソ連ではチェルノブイリ原発事故も起こりました。
日本列島は活断層(地震の発生源)の上にありますが、なぜか原発が多い。
日本政府や電力会社は、いつか大地震で原始力発電所が大事故を起こし、大惨事を招きかねないことを忘れているのだろうか。
知っていても自分たちが食っていくために、見て見ぬふりをしているのか。
年金と同じように、未来の世代にツケを回そうということなのか。
今読んでも様々な発見や教訓が得られる大作です。
すべての日本人が、一生に一度は目を通しておくべき作品だと思います。
子供の頃に図書館でこちらのシリーズを読んで以来、ずっと心に残っているものがあり今回購入しました。 物事というのは、時が経つと「いつに何が起こった」と事実のみが残り、それが起こった時に関わった人々の思いというものが忘れ去られてしまう側面があると思いますが、本短編集には、原爆が落ち戦争が終わった後も原爆によって家族や健康などさまざまなものを奪われた当時の人たちの苦悩が生々しく描かれていて、そのリアルさに気がつくと感情移入してしまい、涙と嗚咽なしには読めない作品ばかりでした。 特に最後の「黒い糸」は被爆者差別によって周囲の人々から差別をされ・・・といった救いのない非常に後味の悪い作品ですが、福島原発問題が起こってから、福島の被災者や生産物に対する差別などが実際に起こっている今読んでも、昔の話ではなく現代でも、そしてこれからも福島の方々に同じような差別があるのではないか、同じようなことで福島の方が傷つけられることがあるのではないか、とぞっとさせられる作品でした。 中原先生の戦争に対しての考えや思想に賛同できない方もおられるとは思いますが、そういう方々もとりあえず読んで判断してください、と薦めたい1冊です。
|