気迫とタイトルにいれたが、著者の、フィクション・エッセイを通じてこの世の身も蓋も無い現実を淡々と切り取る硬質な文体は健在である。ではなぜ敢えてそうした著者のスタイルと相反する印象を与える言葉を選んだかと言うと、文筆業でこのようなスタイルを貫き続けることは想像以上に骨が折れることであり、医療サイドのみならず虚飾により心の平安を得たいと望む大方の消費者からも嫌われる覚悟がないとできない作業だと思われるからだ。そこにはある種の社会通念に背を向けた異常性が介在しているとすら思える。このスタイルを貫き通す限り、自分達の領分の安寧を侵されると懸念する医療サイドの俗人層からは敵視と軽侮の念を持たれ、身銭を切ってまで不安・不快を抱え込むことを嫌う消費者のマスからは恐れられるか素通りされるだろう。だが、ぜひ今後ともそうあって欲しい。著者は近代社会の中でもターミナルな段階に突入してしまった観が強い今の日本の、精神・死生観を鍛える一端を懸命に担い続けている。今の「気迫」を失うことなく目を背けたい現実を切り取り続けていって欲しい。
医療裁判、高齢化社会、尊厳死問題に大学病院の教授戦を絡めて、ぐいぐいストーリーを展開させていく。暗殺、薬物乱用、恋愛もあって、エンタテイメントとして飽きさせない。 焦点ボケと感じる読者もいるだろうが、作者のサービス精神と割り切って、身を任せて読んでいくと気持ちいい。最新医療技術も散りばめられ、センスがいい。 ずいぶん前から気になっていた小説だが、読んで損のない面白さだった。
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