本書は、21世紀になって再びインテリアとして見直されつつある和箪笥を取り上げている。和箪笥の特徴として、地域色が強い点が挙げられる。その土地特有の木や工芸品をふんだんに使用し、技術の粋を凝らした芸術作品を世に送り出していた。仙台箪笥、庄内箪笥、船箪笥はその最たるものだろう。 本書では、写真をふんだんに使用しつつ、写真に付け加えられた文章や解説もコンパクトにまとめられている。そのため、私のような素人でも、和箪笥に関する3つのツボについて自然と好奇心を抱いてしまう。・壱のツボ:「抽斗(ひきだし)前板」の表情を、見よ・弐のツボ:粋を凝らした錺(かざり)を愛でよ・参のツボ:船箪笥に隠しあり 仕掛けあり 本書の中で参考になった事柄は、壱のツボと参のツボである。 まず、壱のツボでは「鏡板」と呼ばれる前板を見れば、職人がどの程度箪笥に情熱を注ぎ、技術や美的センス等の能力が明らかになるという。切れ目ひとつで木目は大きく変化し、同じ箪笥でも異なる魅力を引き出すことは興味深かった。 特に、樹齢400年以上の木でなければ手に入らない「玉杢(たまもく)」は珍重され、滅多に手に入らないという。小さい頃には違和感を感じた玉杢だが、本書を読むことで如何に素晴らしいものであるかを認識した。そして、玉杢を通じて現在のインテリアには無い“空”の要素に気付くことができた。 次に、参のツボでは繁栄を極めた北前舟(きたまえぶね)の商人が贅を極めて船箪笥を所有し、“粋”を競い合ったことを紹介している。そこでは、外見だけでなく機能面でも水漏れを防ぐという桐の木の特性をふんだんに使用し、同時に重厚な造りになっている点に特徴があることが書かれている。 さらに、「隠し」や「仕掛け」がある点にも興味深かった。盗難防止の為に「隠し」のスペースを設け、最も重要な書類を隠していたのである。この「仕掛け」に関心を抱きがちだが、「仕掛け」ができる技術にも注目すべきである。まさに、これこそ現在にも通じる“ものづくり”文化であり、日本が世界に誇る重要文化財であると言っても過言ではない。 本書を読むことで、改めて我が国の文化の素晴しさを再認識した。そして、外国の家具にはない質実剛健で“粋”のある和箪笥の魅力にハマッた。
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