トラベルミステリーの要素が入ってか、最近の数作よりは探偵の活躍が認められたが、肝心の東尋坊での殺人がトリック重視に偏った感があり残念で物語をもっと丁寧に描いてほしかった。
しかしこのシリーズの最近の倒叙物よりは面白く、今後に期待したいところ。
一、二巻での謎の提出を経て、いよいよ探偵が推理に乗り出す第三作目。もっとも、そのわりにはこの本は緊張感を欠く間延びした展開である。四巻目はスピードとサスペンスが上がってくるので、淡々と読み進めましょう。
著者のミステリでは、現在のところ最長であり、最高傑作であろう。 えっえっと思っている間にストーリーがどんどん進み、次々にひとが死んでいく。 一巻目だけを読んだら、これって何?ホラー?SF?と思っちゃうよ。 でも、最後まで、四巻目まで読んだら、これは間違いなく本格ミステリ、それも伏線張りまくりの直球本格だってことが分かる。
とにかく、蘭子の推理がすごい。 四巻目まるまる一冊を解決編にするなんて、なんて嬉しいことをやってくれるんだ。 まあ、トリックはどうしても物理的なものが多くなるが、そんなこと、この謎、不可能興味、そしてこの長さの前では、かすんじゃうよ。 ここで蘭子は、というか著者は、精力を使い果たしちゃったんじゃないか。 このあと、たしかに著者の作品は今ひとつになっちゃうんだ。 「魔術王」にしても「双面獣」にしても、蘭子ものはさっぱりだし、サトルものはもともと少し薄味だし。
そして、著者はなんだか「容疑者X」論争でケチをつけちゃったんだな。 もっとガチ本格、それも直球本格を書ける作家だと思うし、あえてそういう作品を書く作家は今珍しいんだから。
著者の弟子筋の加賀美氏も「監獄島」という大作後はパッとしない。 やはり大作が傑作だと、そこに魂を吸い取られちゃうのかもしれない。 でも、ここに著者の大傑作を待っている読者がいるんだから、ガンバレ!
今度の作品は、題名どおり緊張感に満ちた誘拐事件が起きます。犯人の正体や動機の謎に加えて、三葉の心霊写真が醸し出す謎が加わり、今後、どう展開するのかという魅惑的なストーリーとなっています。前半はサスペンス色が強くて、水乃サトル・シリーズの中でも異色作となりました。 しかし、見所は中盤以降のアリバイ崩しにあります。誘拐事件に仕掛けられた罠は、本格ミステリーを読み慣れた読者には漠然と真相が読めるかもしれません。ところが、その先に、猟奇的な連続ホームレス殺しという事件と、それによって作られた犯人の鉄壁のアリバイがあり、不可能が読者の前に立ちはだかるという趣向になっています。よって、後半の展開には、鮎川哲也のアリバイものを彷彿させる風格さえあると感じました。 ホームレスを使ったアリバイ・トリックは前例がなく、犯人は(作者は)こんなことまでやるのか! と、読者は絶対に驚くことになるでしょう。 サトルのライバルらしき怪しい男も登場して、次の事件の予告もされているなど、続編が発表されるのが今から楽しみでなりません。
新本格ミステリー作家の一人、二階堂黎人氏の最新作です。
本作はアリバイトリックが本筋です。見事に構築された鉄壁のアリバイを名探偵が破る、というオーソドックスなスタイルです。
なのですが、肝心のトリックが簡単に見破れてしまい、想像通りの結末で、かなり残念でした。伏線の貼り方が分かりやすすぎるとでも言いましょうか。この辺りに著者がもう一つ抜けられない壁があるような気がします。
また、非常に気になるのが会話です。なんというか、洗練されてない印象です。大学生の探偵が使う言葉も、助手(?)の言葉も、なんだか時代がかった匂いがしてきます。舞台はバブル華やかなりし頃で、まさに私の青春時代とかぶるのですが、そこに設定した理由が不明です。連作なので、そのどれかにその時代でないといけない理由があるのでしょうが、単体で読むと疑問を感じます。
本格物をこなす作家が少ない昨今のミステリー界では貴重な存在なので、是非もう一段上の作品を出してもらいたいと強く思いました。
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