ショーター・カルテット来日しましたね(2004年2月)。70を超えても相変わらず元気そうで、ファンとしては有難いことです。しかしショーターについて語られる時、何で日本では『JuJu』や『Night Dreamer』の方が、このアルバムより先にくるのかは、私には分かりません。2つとも無論5っ星ですが、ショーターの決定打はやはりこの『Speak no Evil』れでしょう。同時期のマイルス・コンボの一連の作品はもちろん凄いですが、あれは天才プレーヤーばかりが集まった、レアル・マドリーのサッカーみたいな作品群です。その背後にある方法論・アプローチがより明確に打ち出されているのは、ショーターのこのアルバムだと思います。サッカーで言うと、アーセナルとかデポルティーボのコンパクトで機能美にあふれたサッカーの楽しさ・美しさです(って自分で書いていても、良く分からない説明)。ジャズに非日常的なカタルシスを求める人は、マイルス・コンボやコルトレーンの方を好むのかもしれません。しかし個人的に日常的に聞くのは、このアルバムや『Adam's Apple』、『Schizophrenia』、それにハービー・ハンコックの『Maiden Voyage』、『Empyrean Isles』といった作品の方です。
前々から存在は知ってた。リアルタイムでは子供だったので観てない。大人になってジャズにはまって、テナーのデクスター・ゴードンが怪演している映画があると聞いていたが、デクスター・ゴードンは、まあまあ好きなミュージシャンではあるものの、熱狂的なファンというほどではないので、これまでノーチェックでいた。しかし、たまたま他の出演メンバーをどこかで見て、「なぬ!ハービー・ハンコックにボビー・ハッチャーソンにロン・カーターだと!」と、一番好きな60年代新主流派の強豪がフル参加しているのを知って、そのライブシーン目当てに見てみた。正直演奏シーンがあればストーリーがしょぼくてもアリとするかと適当に観たら、これがなかなかストーリーも良くて掘り出しもの。そのストーリーについてはネタバレなのでいっさい触れない。まず、有名だったデクスターの怪演ぶりについてだが、酒と煙草で荒れてそうなシャガレ声でボソボソしゃべるので、(英語に堪能というわけではないが)声そのものが聴きとりにくいが、これが味というものだろう。酔いつぶれてオヤジランニングシャツでベッドで寝込むシーンの磨き抜かれたたるんだ肉体の退廃美ときたら、これぞ天才ジャズミュージシャンのなれのはてを演じきっている・・・というより、まさに「地」。しゃべるセリフも、ジャズの歴史や自分の音楽的ルーツに関しても、ほとんど脚本家のものではなく、おそらく「実話で本音」。しかし本作の本当の美味しいとこ取りのズルイ奴は、何といってもハービー・ハンコック。音楽監督を務め、音楽部門でちゃっかりアカデミー賞をゲット(デクスターも主演男優賞ノミネートらしいが取れてない)するのみならず、他の豪華ゲストミュージシャンがライブ専門なのに対して、ハンコックはしゃべるしゃべる。ライブの司会も手慣れたものだが、流石ミュージシャンは撮影慣れ、場慣れして、まったくジャズを知らない人は、普通に男前の黒人俳優と思うだろう。あと特筆すべきはヴァイブのボビー・ハッチャーソン、個人的に大好きなプレイヤーだからライブシーンを期待したがヴィヴラフォンは特殊な楽器のせいか、必ずしもライブに毎回は参加していないが、その代わりに、レディ・エースなる珍妙な名前で、デクスターのパリのアパートの隣の住人として、一日中寝巻き(ガウン)で怪しげな料理ばかりして、無駄口叩いたり、時に哲学的で深遠なセリフを吐いたり、これまた3枚目役として大活躍。この2人の出たがり・目立ちたがりの性格が笑えた。あと、物凄く計算しつくされていると感心したのは、映画製作時は80年代中盤だが、時代と場所は59年のパリ。つまり、その演奏スタイルは、その時代にきちんと合わせているのがハンコックの緻密さだろう。59年といえば、アメリカ・ニューヨークではすでにモードジャズやら新時代のアバンギャルドなジャズも萌芽の兆しをみせていたわけだが、パリというのは、少し遅れていただろうから、59年としてもかなりオールドスタイル(それでいて高品質)の演奏を再現している。これが、後半ニューヨークはバードランドでの演奏になると、それよりややモダンスタイルの演奏にしている芸の細かさ。興味深いのは、パリのほうで、しっとりとブルージーがケニー・バレルばりのギターを弾いている渋い白人は誰?と思っていたら、エンドロールで、そうかジョン・マクラフリンか!彼はエレキギターで弾きまくるイメージあるから気付かなかったよと、色々驚き。ドラマーがパリではビリー・ヒギンズでアメリカではトニー・ウィリアムスというのも、どっちも上手いがよりモダンなほうをアメリカに持ってきたんだなあと。とにかく細部まで音楽面では趣向が凝らされている。最後にストーリーについて少しだけ触れると、冒頭のように、別にジャズに対して無知識で、演奏を無視しても十分泣かせる物語であるのは確か。その演奏も、小うるさいジャズファンむけのアバンギャルドな演奏ではなく、スタンダード主体の親しみやすいしっとりとした演奏主体なので、不快に感じる人は皆無のはずだ。そして、実話に基づくというか、デクスター・ゴードン自身とバド・パウエルとレスター・ヤングあたりを合体させたようなキャラとその実話をもとに構成されたらしいストーリーは、泣けること間違いなし。ただ・・・やはり細部、あの時代に生きたジャズミュージシャン、黒人プレイヤーの現実、酒と麻薬中毒、そういう背景の知識がないと、理解しにくい面があるかもしれないとは言っておく。
このプロジェクトの白眉は、ラストの「サマータイム」だろう。この超スタンダード曲を、ここまで、仕上げて来るとは。そして、後ろの2人(ギル・ゴールドスタイン/ピート・レビン)の凄さ。最後の1拍のために、周到に音を用意している。プロの中の、プロの音だ。
今回のBNLA999シリーズはいろいろと興味深いレコードが国内初CD化されているが、本作もその一枚。 ウエインのファンは日本にも多いと思うが、本作のような最重要傑作がこれまで国内でCD化されていなかったというのはまさにレコード会社の怠慢とシカ言いようが無い! いつまでも「ナイト・ドリーマー」じゃないんだってバ!!
輸入盤のレビューでも書いたが,マイルス・スクールの元同僚が多数参加しているが,チックにしろ,デイヴ・ホランドやロン、それにジョン・マクラフリンにしろ、「おなじみの楽器」ではない楽器を担当させれているところがミソである。また、時期的にエレクトリックを想像している方もいらっしゃるだろうが、ほとんどアコースティック。だから、個人的には、「ビッチェズ・ブルーからウエザー・リポートへの過渡期的作品」という評価には同調できない。 「ネイティブ・ダンサー」のように、他との関連性は無く、唯一無二の個性を持って屹立している音楽である。
さて、本作のリリースで、いくつかの基本情報がヴァージョン・アップされている。 まず、録音時期。昔は、オデッセイ・オブ・イズカ(これも999シリーズで再発を!)と同日録音とされているが、今回、70/4/3と改められた。マイルスでいえば、「フィルモア」でのライブや、ジャック・ジョンソンのメイン・セッションのほんの数日前という事になり,たいへん興味深い。 ちなみに、ウエインは3月でマイルスのバンドを脱退している筈で,3月のフィルモアでのライブには参加しているが,レコード化された4月のライブは,スティーブ・グロスマンに替わっている(ジャック・ジョンソンのメイン・セッションもグロスマン)
それから、「謎のパーカッション・プレイヤー」ミシェリン・プレル(ペルツァー)だが、ベルギー出身のサックス・プレイヤーでジャック・ペルツァーという人の娘で,録音時にはまだ19歳だったという。 また、ベーシストとして、ウエザーの結成メンバーでもあるミロスラフ・ヴィトゥスの名もクレジットされている。もしこれが本当ならば,ロン・カーター、デイブ・ホランドと3人もの本職ベーシストをセッションに呼んだ事になり、ウエインの狙いはどこにあったのか,興味深いところです!
蛇足ながら,「モト・グロッソ・フェイオ」というのは、「アマゾン河」という意味なのだそうです。
いま、2曲目の「モンテズマ」を聞きながらこのレビューを書いているが,ドッタンバッタンした打楽器やヴァイブ、セロ、ウッド・ベースなどのモザイクの上を飛翔するウエインのソプラノ・サックスは超サイコーの出来です! 彼のファンは絶対必需品です!!!
ワタシはショーターはマイルスからではなく(笑)JMから入ってしまったので「ナイト・ドリーマー」「スピーク・ノー・イーブル」は即座にカッコイイ!って思ったんですが、この盤は何かエルビンから煽られても、のらりくらりと上手くいなしてる感じで何だか聴いててフラストレーションが溜まるみたいな所が有って、よく聴き込まないうちに手放してたんです。ところが最近になって苦手だったジョーヘンを好きになり「リアル・マッコイ」良いなと思ったら、これも行けるんじゃないかと思ったら… 行けました(笑)気持ち良いのね、実は。ただジョーヘンの場合、うねうねと吹いてるんだけど、そういう風にしか吹けないみたいな自然体で、ショーターの場合「ここは、うねうね吹いた方が新感覚でカッコイイんじゃないか」みたいな作為が見え隠れするね。作為丸見えのマッコイと組んでるから尚更そう感じるのかな?まあー芸術的に表現するならば「意図」と言い換え可能ですが… そう表現しなければならない切迫した衝動みたいなのに余りに欠けるので、最近になってショーターがどんな表現をしてようが冷めた目でしか見れないワタシが居る事に気付きました(笑)そりゃあウェザーリポート行っちゃうよなあ、この人はみたいなね。(とほほの助)
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