ウラディミール・アシュケナージ
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ラフマニノフ:悲しみの三重奏曲第1番&第2番

発足時から「ラフマニノフ協会」の会長を務め、ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov 1873-1943)の音楽の普及に長年貢献してきた巨匠、アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)は、2012年発売のアルバムで、ピアノ・ソロ曲全曲の録音という偉業を成し遂げたわけであるが、このたびは、ピアノ付室内楽のうちで、これまで録音をしてこなかった「ピアノ三重奏曲」がリリースされた。ヴァイオリンがフィルハーモニア管弦楽団の若きコンサートマスター、ツォルト=ティハマー・ヴィゾンタイ(Zsolt Tihamer-Visontay 1983-)、チェロが、BISレーベルでもアシュケナージと共演のあるマッツ・リドストレム(Mats Lidstrom 1959-)。2012年の録音。収録曲は以下の通り。

1) 悲しみの三重奏曲 第1番ト短調
2) 悲しみの三重奏曲 第2番ニ短調 Op.9
3) ヴォカリーズ(ヴァイオリンとピアノのための)op.34
4) 6つの歌より第5曲「夢」(リドストレム編曲によるチェロとピアノ版) op.38-5

ラフマニノフの2曲のピアノ三重奏曲は、チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky 1840-1893)、アレンスキー(Anton Stepanovich Arensky 1861-1906)の流れを汲み、ロシア・ピアノ三重奏曲の名曲群を成すもので、連綿たる情緒、深い郷愁に満ちた旋律を滔々と歌い上げた名品である。特に、チャイコフスキーの死に捧げたと言われる第2番は、チャイコフスキーの同曲と同様に追悼曲の性格を反映し、両者の印象を似通わせる。また、単一楽章構成で、習作的に位置づけられることのある第1番も、センチメンタリズムに満ちた美しい旋律を持っていて、ラフマニノフが好きな人には聴き逃せない曲ではないか、と思う。

やはり注目したいのは、録音時75歳となったアシュケナージによるラフマニノフへの思いの詰まったピアノである。確かに技巧的には、以前の凄まじさがなくなったけれど、一つ一つ慈しむように弾かれるその音は、感動的で、音楽として一番大事なものを切々と問いかけてくるような響きに思える。

また、特に第2番における情熱的で技巧的な展開部分などにおいて、若き頃を彷彿とさせるようなダイナミックなピアニズムも披露されている。それに、何と言っても、このピアニストの場合、ラフマニノフ作品への共感の度合いがことさら深いので、繰り出される表現が、すべて齟齬なく収まり、そのことで、熱いほどの郷愁が、こみ上げるように迫ってくるのを感じるのである。

ヴァイオリンのヴィゾンタイ、チェロのリドストレムともに、この巨匠との演奏に尽くすかのように音楽を奏でている。そのことも、これらの音楽の献身性や感動性に繋がっている。

「ヴォカリーズ」という曲をアシュケナージは何度録音したのだろう。指揮者として「オーケストラ版」を録音しているが、ピアニストとして、コチシュ(Kocsis Zoltan 1952-)編曲の「独奏版」、原曲である「歌曲の伴奏」、「チェロとピアノ版」は、ハレル(Lynn Harrell 1944-)の他、本盤で共演しているリドストレムともかつて録音がある。そして、今回の「ヴァイオリンとピアノ版」についても、以前、シドニー交響楽団のコンサートマスターであるオールディング(Dene Olding 1956-)との録音があった。なので、いま数えただけで7種の録音があることになる。もちろん一つとして悪い演奏なんてないのだけれど、今回の録音も澄んだ情緒が美しく漂っている。

最後に収められた「夢」がまた聴きものだ。編曲の妙もあって実に美しい仕上がり。簡素なメロディーながら、十分な表現の幅があり、これを余すことなくチェロとピアノが伝えている。きらびやかな瞬間のあるピアノ・パートも要注目。いずれにしても、このディスクの登場で、また一つ大事なラフマニノフのアルバムが増えた、というのが私の実感です。



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アシュケナージのピアニストとしての映像は、これが初出ではないかと思います。指揮者としての映像は、オクタヴィア・レコードから出ていますし、NHKから放映されてもいます。1974年の春、彼が36歳の時、チャイコフスキー・国際コンクール優勝からほぼ10年後に録画されたものです。BBCが放送用に、ベートーベン・ピアノ協奏曲全曲演奏会を企画し、ロンドン・フェスティバルホールで行われた演奏会の全録画です。

あの鮮烈で、珠玉のような音色がつぐみ出される様子を、目の当たりに出来る魅力的なDVDです。当時のアシュケナージの眼光鋭い顔の表情に、今の温顔と比べ、一驚します。強い打鍵の際の逞しさ、歌うようなパッセージの際の自分が奏でる音の粒に魅入るような様子、その緊張感のルツボの中に、見るものを引き込んでいきます。



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みごとな集中力、美しい音で弾いているけど、タメが無いなあ。
逆に、この難曲を正確な音程でほとんどインテンポで弾けるテクニックの瞠目。
天才であるのはまちがいない。



ウラディミール・アシュケナージ


オーケストラのツアーを記念して12月版のポッドキャストを日本語でもご利用いただけます。今月の番組には、諏訪内晶子やウラディミール・アシュケナージとのインタビュー、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲の解説が含まれています。
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