「勤労感謝の日」と「沖で待つ」の2編を収録した1冊。 第134回(2006年前期)芥川賞受賞作。 芥川賞対象作品だけあって、さらっと読める分量。でも内容は充実です。 上司の横暴に切れて会社を辞めた女性主人公の日常を描く「勤労感謝の日」は、 (おそらく)30代以上の人々には、静かな共感を覚えることが多いのでは、と思う ような、会社や人生について考えさせられる内容。といっても、深刻すぎるわけ でなく、主人公の思考は常に楽観的です。読むと元気をもらえた気がします。
そして、やはり注目は芥川賞受賞の「沖で待つ」でしょう。主人公は(これも おそらく)20代後半から30代前半の企業で働く女性、そして彼女の同期だった男性。 主人公の視点で語られる、社会人として働き始めた時から、必死に駆け抜けた年月。 時につらく、厳しく、でも同時に暖かく、穏やかなものとして静かにユーモアも 交えて描写されています。人はだれでも秘密、それもささやかなものを抱えて 生きているし、その秘密は、時に家族や愛する人ではなく、案外会社の同期なんか に打ち明けたりするもの。本作の登場人物たちも、まさに会社の同期として、 何物にも変えがたい日々を共有しています。この話は、人生や社会のことを書くと いうテーマと同時に、「会社の同期ってなんか良いよね」ということを言いたいの ではないかと思います。
学生時代の同期とも違う、サークルの仲間とも違う、もちろん恋人とも違う、 だけど、なんだか特別な存在、それが社会人の同期なのだと、僕自身初めて 「同期」がいる生活を送る中で実感してます。
もちろん、「同期」という存在を軸に、世代が抱える共通の意識や悩み、そして 人が生き、死んでいくということについても、静かに淡々と、さらっとですが、 鋭く深く心に残るような内容でもあります。さすがに名作です。
毎日を淡々と、静かに、懸命に生きる人みんなが読んでほしい佳作だと思います。
報われないと解っていて、それでも好きでたまらなくて・・・という経験は誰でもあるだろうが、出会ってから十二年も近からず、遠からずの距離で慕い続けるというのは、スクリーンとかブラウン管の中とかの相手でもない限り、あり得ないだろうと一度読んでみて思った。 でも「小田切の言い分」を読んでみて、それもアリ?なのかも、と思えた。
でもやはりダメだ。自分には無理だ。日向子になるにはどうしたらいいんだろう? 何が足りないんだ?欠けているんだ? 我慢?忍耐?悟り?母性?愛の深さ? ひとつ間違えばストーカーだが、日向子は違う。 セックスレスだから都合のいい女、とも違う。 決して届かないと思っていたが、気が付いたら小田切の近くにいた、というのが正しい。 前を遮っていた女達が入れ替わろうともしかし、日向子のポジションは変わらない。
日向子にあって、自分にないものを見つけあてたとき、自分とは違う自分になれる気がして、繰り返してページをめくってしまう。
廣木隆一監督と脚本の荒井晴彦そして主演の寺島しのぶの「ヴァイブレータ」トリオによる作品です。本作の主人公は鬱病の女性ということで「ヴァイブレータ」よりは少々特殊ですが、30代の未婚女性に共通する孤独感、不安感、都会生活者の浮遊感をやわらかくとらえています。
俳優陣は実力派が揃いましたが、壊れかけた女を寺島しのぶの存在感を感じさせながらも自然な演技、彼女と接する豊川悦司や松岡俊介などの、やさしい(?)ダメ男ぶりがいい。演出的には、BGMを極端に廃してワンシークエンス・ワンカットに近い長廻し。カラオケ1曲ワンカットなんてのもあった。(←これは必見です)
他にも、屋上の洗濯物の周りを寺島しのぶが歩くシーン、寺島と妻夫木聡がタイヤ公園に入ってくるシーン、寺島のアパートを豊川悦司が初めて訪ねるシーン等々。無駄にカットを切り替えず俳優にじっくり演技をさせている。そして、人の動きもカメラの動きも共にとても滑らかで、緻密に計算された感じがします。
舞台となった蒲田の風景・環境もこの映画の魅力のひとつとなっています。東京の下町ではあるのだけど、浅草のようには「粋」で無い雑然とした下町『蒲田』。タイヤ公園、力道山の銅像なんかがその象徴か。初めて来たときから、どこか懐かしくて、夢で歩いたことがあるみたいにしっくりきたという、主人公の言葉がしっくりくる。
立ち直った主人公の眼前を通り過ぎる現実。ラストはこうでなければいいなと思った通りになってしまったので、少々残念ですが非常に印象的でした。静かだけれど、思いのほか厳しい...。
曲はいいと思うんだけどインパクトが弱いかな!!ちょっと個性がなくなったような!誰かの曲みたいって曲が多い!!STARTはらしくていいと思う!!あんまりもともと曲少ないから逆にちょっとはマンネリ化してもいいような!!全部CD持ってるだけに期待しすぎました!それにしてもshelaの作詞にはいつも星が入るな!
50年後も読まれている、つまり文学史に残るかもしれないけれども、この短編集に閉じこめられた空気をリアルに感じられるのは、同時代に生きる読者だと思います。 いま読まれてほしい本物。 閉じこめられた不穏さ、その向こうのかすかな明かりに静かな感銘を受けました。
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