ベートーヴェン　ピアノソナタ第２３番《熱情》ラザール・ベルマン

ベートーヴェン　ピアノソナタ第２３番《熱情》

ラザール・ベルマン名演奏集(7枚組)

30年以上前に自分もピアノを弾いていた時、彼の演奏したベートーベンのピアノソナタ「熱情」を聞いた時、これほどうまいピアニストが居たのだと感心した覚えがあったのですが、今回の7枚組、ライブ音源が多いせいか、思ったよりもラフな演奏が多く、同じ「熱情」も収録されていますが、良くも悪くも意外な演奏でした。
全盛期のホロヴィッツやルービンシュタインのような正確さはないものの、おもしろみのある演奏ではあったと思いますし、変わった曲も収録されていますから、お買い得だとは思います。

リスト:巡礼の年(全曲)

村上春樹の新作を読みながら聞こうと思い購入しましたが、作品には無くてはならないと思います

Liszt: Annees de pelerinage (Complete recording)

巡礼の年全曲は LP 時代から極めて評価の高いものでしたがCD化は比較的後回しにされていました。現在では当時のLP一枚分強の値段で全曲が聴けるのですから良い時代になりました。
他の方のレビューで絶賛されていますので繰り返しになりますが幾つか思うところを書かせて頂きます。

音の美しさ：弱音から強音まで、充分な残響を伴いつつ濁りの無いピアノの音が聞こえてきます。録音はミュンヘンの宮殿にある回廊のような広い部屋で行われています。実際に行くと判るのですが自分の靴音すら柔らかく反響して、反響という言葉からイメージする冷たい感じは全然ありません。

心の平穏：この方は超絶技巧練習曲の録音（打鍵が強い上にマイクが近すぎて「カン、カン」と聴こえる）があまりに有名なのですが、この録音では轟音／豪腕を殊更に感じさせる箇所はありません。むしろフォルテですら軽やかさのほうが印象が強いです。

ロマン派：19世紀の巨匠達の直系の教育を受け、オペラや歌曲から旋律の歌わせ方を探求した方ですので小節線などは「記符の都合」に過ぎません（NHKが放送した東京公演でのラフマニノフの「楽興の時」はその良い例です）。譜面の指示通りに弾いていない箇所は、その通りに弾くと旋律が死んでしまうという判断でしょう。

この曲集を全曲録音された方といえばシフラ、チッコリーニ、ボレ（ボレット）、ヤンドがすぐに浮かび、どなたもそれぞれに素晴らしい演奏をされていますが、ベルマンのこの録音は一段上の文化財級です。このような文化財級の録音でもお金を払えば回数無制限で聴けるのですから、例え値段が幾らであってもタダみたいなものです。

ところで、ベルマンと言えば最近になってVeneziaレーベルから再発された超絶技巧練習曲は長く待たれていたCD化でした。メロディアから出ているCDはこれとは別の折の録音で演奏は１段、音質は３段くらい落ちます。こちらも買えるうちに買ってしまいましょう。