別名義「林不忘」として時代劇ヒーロー丹下左膳を生み出し、「谷譲二」名義で海外風俗小説をものしていた戦前の人気作家長谷川海太郎の「牧逸馬」名義の代表作「世界怪奇実話」シリーズ。
中でも「浴槽の花嫁」と並び白眉と言えるのが切り裂きジャックを主題にしたこの作品。
おそらく日本でジャックを一般読者に紹介したテキストでは最初期の作品ですが、より多くの資料を踏まえて書かれた最近の「切り裂きジャックもの」と比較しても、読み物として遜色ありません。
あえて時系列順に事件を並べず、当時の風俗や時代の空気のようなものを織り交ぜた少し古風で端正な語り口は、海外の古典探偵小説を読むような独特の魅力があり、ガチガチの文語体や講談調というわけでもないので若い読者でも楽しめるはず。
余談ですが以前文庫版が出た当時に、いくつかのまんが入門や小説の書き方といった本でストーリー構築の参考に紹介されていた記憶があります。
紙媒体の本との違いは、挿入されていた写真や図版がなくなっていること。 (写真・図版などの著作権は本文とは別なので、これはやむをえないことですが)
興味のある方は上記の点を踏まえてどちらを選ぶか決めれば間違いがないでしょう。
20年ほど前、古本屋で何気なく買った牧逸馬の「世界怪奇実話」を読みそのあまりのおもしろさに、犯罪ノンフィクションを読むようになりました。 今回再度読んでみて、やはり古くなっていないことを確認しました。 現在手に入りにくい牧逸馬の本を出してくれるとは、んーすばらしい。 犯罪ノンフィクションが好きな人にはぜひ読んでほしい1冊です。
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