他のレビューが酷評するモノが多いので、覚悟して観たが、私にはかなり楽しめる出来の映画だった。これは、サイコ・スリラーの形を借りた「愛」と「憎悪」と「孤独」と「喪失」のドラマだ。本多俊之の、幾何学的で、時に物悲しいサックスの響に乗せて、「観念」と「情念」の世界が展開される。70〜80年代の匂いが立ち込めるムードを演出したのは、「天使のはらわた・赤い淫画」や「人魚伝説」の、懐かしや、池田敏春。脚本協力者の中に、長谷川和彦らと共に、故相米慎二の名前が出てきたのはビックリ。池田敏春に、「デレカン」時代の戦友たちに、どの部分のサポートを受けていたのか、是非とも聞いてみたい。
殊能氏の館もの本格路線の作品で、現在と過去が互いに進行していく。もうこの構成で大体叙述系トリックだろうなと思ってしまうが、実際その通りで、どんでん返しもハサミ男と同趣向である。軽いタッチなのでサクサク読めるが、期待値が高いとそれほどオチの衝撃性はない。ネタありきの作品なので、全ての要素がネタに集約しているだけの駒として展開するので、小説自体としては何の中身もありません。氏のハサミ男が好きならまあ楽しめるか。氏の作風を知らずにいきなり本書だと評価はかなり分かれそうだ。
ぼんやり読んでたら、見事に騙されました。猟奇連続少女殺人、自己破壊衝動とサイコ気分がステキなミステリ。騙されてなんぼ、であるから、読者の方は予備知識なしにいきなり読んで、「オオ~っ!?」とすっぱり騙されていただきたい。話に斬新さはないかもだけど、上手な構成である。 見せかけとはいえ微妙な均衡が保たれていた事件の渦中よりか、事件が一応の解決を見たあとの方が破滅的で不気味な雰囲気を漂わせている気がした。
いやはや流石な出来。 ミステリーはこういうものがあるからこそ面白い。 どんでん返し好きなら買っておいて損はないでしょう。ただ、中身の面白さを総合的に見れば「良質」止まりかな。雰囲気も悪くは無いし、文章も読みやすく悪くないのだけれど、結局「悪くない」どまりのような気がしないでもない。暇つぶしには最高の本であると思う。
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