枕橋の御前と呼ばれる旗本の若隠居「本多隼人正」と彼の養女であり弟子でもある美少女剣士「美涼」、 そして美涼に危ういところを助けられた島帰りの大店の長男坊「竜次郎」の3人を中心に物語は展開します。 まず面白いのは隼人正と美涼の関係。 養父養女の親子関係なのか、剣術の師匠と弟子の関係なのか、将又、お互い惹かれあっている歳の差、訳ありの男女なのか? 全てにおいて二人の腹の探り合いと駆け引きが面白く、また、お互いそれを楽しんでいるかの様です。 竜次郎他の周囲の者にとっては全く持って「ややこしく面倒な二人」に過ぎませんが、 親子、師弟、男女のそれぞれの立場立場での心の機微を微妙に描いており面白いと思います。 作品の描き方もちょっと趣向が凝らしてあります。 物語の途中途中に隼人正と美涼との出会いを入れるなど再三場面が飛びます。 隼人正と美涼を襲う刺客との戦いなど楽しみです。
丹波屋が持ち込んできた美涼の縁談、相手は旗本の嫡男で道場主という触込みの倉本典膳ですが、 何故か道場は小さくてみすぼらしい、そしてまた弟子もいない様子。 隼人正の縁談相手に向けられたグチが、娘である美涼を奪われたくない父親としてのグチなのか、 将又、美涼を一人の女性として想う男性としてのそれなのか微妙です。
一方、江戸を荒らす凶悪な盗賊団が出現します。 高貴な生まれであるが故の心の屈折が生み出す身勝手な事件が罪もない人々の命を再び奪います。 その盗賊の頭の名が隼人正の心の中に眠る今は亡き許嫁「美里」を呼び起こします。 度々30年前の出来事を絡めながら物語は展開します。 盗賊団に秘められた謎、それがもし表沙汰になれば徳川家をも揺るがす大事件となります。 容姿に恵まれたばかりに、とある女性に岡惚れされた隼人正が、巻込まれた30年前の悲惨な事件。 この決着を彼はどう着けるのか?
相変わらずの「隼人正」「美涼」「竜次郎」のおとぼけ振りというか、 腹の探り合いというか、会話や行動が面白く描かれております。 二人の間にある師と弟子、父と養女の関係、そして大きく離れた歳の差の為か、 お互い素直になれない隼人正と美涼の関係が、発展するのかしないのか?それも楽しみなシリーズです。
私はイラストレーターさん目当てで買いましたが、お話のほうも独創的で買ってよかったと思います。 もともと中華風のお話が好きだったこともありますが、ファンタジー小説らしい世界観に引き込まれて あっという間に読み終えてしまいました。もちろん、睦月ムンクさんの絵も作品と非常に合っており、 次の挿絵が来るのが待ち遠しくなるくらいです。世界観的に難しい漢字や名前が多くなってしまうので、 やや読みづらさを感じるかもしれませんが、一冊にうまくまとまったスト―リー構成で、 なお且つ続刊を期待させる内容だと思います。
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