泉鏡花独特の細やかで、薫るような文字使いが遺憾なく発揮された作品です。特に「雛がたり」は格別。満員電車の喧騒の中で読み進んでいたはずなのに、気がつくとそこは、霞がかった景色、萌えるような花のにおい…。鏡花の美しすぎる文章に、主人公とともに騒々しい世界から幽玄の世界にいざわなてしまったかのよう。突然現れた美しく怪しい雛たちは、主人公を、そして、彼を透した私をどこへいざなおうとしていたのだろう…もうあれから3年も経つけれど、けぶいた空気のその先にあるものを、時々思わずにいられません。
好調の“文学少女”シリーズ、待望の六巻目。第五巻からちょっと時間を巻き戻して、二巻と三巻の間、夏休みのお話です。
「番外編」ということで、今回は本筋とは絡まないお気楽な内容かと思いきや、なかなかそうでもありません。
心葉と美羽の物語は少しお休み。芥川君、ななせや竹田さんの出番も無しの今作では、いままでは物語を進める上での切り札・便利屋的な役割だった姫倉麻貴がメインの役どころ。
姫倉家の別荘に隠された過去の秘密を泉鏡花の作品群になぞらえて、いつのもように“文学少女”がお見事な「想像」を披露し、関係者の心を解放します。
また、心葉と遠子先輩の危うい心の繋がりや、先輩の葛藤(?)がぐっと掘り下げて描かれており、当然三巻以降を先に読んでいる読者としてはやや戸惑う面もありますが、ここはやはり次巻以降のクライマックスに向けて、時を戻してでも描いておかなければならぬ必然性があったと見るべきでしょう。
そしてエピローグはまたしても意味深&衝撃的で、これから描かれるであろうおそらくは哀しく切ない、でも温かな最終章への期待をますますかきたてられます。
鮫島有美子の「日本の歌」シリーズは回を追う毎に芸術歌曲に向かって行き、ついには後の「日本歌曲撰集」に至ります。
その一歩手前のこのアルバムでは、日本歌曲の中でも特にメロディアスで聞きやすいものが採り上げられています。親しみやすさと芸術性のバランスがよく、日本歌曲入門にももってこいですね。丁寧な歌唱でデンオンの録音も良いのですが、あまりホールの個性が生きていないのが残念です。ピアノは素晴らしいものがあります。
マンガと英語で近代文学を覗いてみる本。
明治から昭和初期の12作品が紹介されています。各作品には18ページずつ割かれていて、その18ページが更にいくつかの小部屋に分かれているので、どこからでも読めます。まるであらかじめつまみ食いされる事を想定しているかのよう。気軽に読める本ですね。
マンガと日本語と英語で粗筋が紹介された後、『キャンベル先生のつぶやき』という部屋では原文と英訳文が示されます。日本文学の専門家であるキャンベル先生が、英訳に際して感じたことなども書かれていて、敷居の低い本書の端倪すべからざる一面が垣間見えます。
文学の紹介本としてはかなり異色の一冊かもしれませんが、読み易いです。
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