クラシック音楽は好きなのだけれど、オペラになると少し敬遠してしまう方もおられるでしょう。オペラを初めて触れてみようという初心者には実に分かりやすく親しみやすい本だと思います。
代表的なオペラを10作品取り上げ、題名のない音楽会等での軽妙な語り口で親しまれている音楽家青島広志さんが文を書き、半世紀以上少女漫画を描き続けてこられた水野英子さんが分かりやすい漫画で紹介するという内容でした。
各作品とも、作品解説、ストーリー、キャラクター、キャラクター相関図が各1ページ、見どころ、聴きどころが4ページ、水野さんによる名場面の漫画が6ページ、オペラの裏側が1ページという構成になっていました。
紹介作品は、椿姫(ヴェルディ)、魔笛(モーツァルト)、ラ・ボエーム(プッチーニ)、カルメン(ビゼー)、ドン・ジョヴァンニ(モーツァルト)、アイーダ(ヴェルディ)、魔弾の射手(ウェーバー)、ワルキューレ(ワーグナー)、蝶々夫人(プッチーニ)、トゥーランドット(プッチーニ)の10の名作でした。 これらの作品は日本だけでなく、世界中で親しまれている名作ですので、オペラ鑑賞する前に事前に知っておくだけで愉しみ方が変わるでしょう。
プッチーニ「ラ・ボエーム」や「蝶々夫人」、ビゼー「カルメン」などは、本書の説明で十分理解できるでしょう。ストーリーが分かりやすいオペラは本書の得意とするところです。 ただ、モーツァルト「魔笛」のように背景にある奥深さと複雑さを本書で知るには少し無理があるでしょう。青島さんも「でも、あまり深く考えずに、王子が、囚われた王女を救い出すというお伽話だと思って観るのが、気楽で一番ですよ。」と書いています。
ワーグナーの「ワルキューレ」ほどの「難易度が高く長大な作品」を理解するのは並大抵ではありません。本書では有名な「ワルキューレの騎行」の場面が漫画で描かれていました。難しい作品も本書のような入門書があると親しみやすいのは事実ですので。
子供のころ読んで、アメリカに夢見ました。 それがまた手に入り、便利な今を実感しています。
1963年に漫画雑誌「りぼん」の別冊付録として描かれた水野英子さんの『ローマの休日』が実に46年ぶりに復刻された。映画の著作権保護期間が2007年で切れて、刊行できることになったそうだ。この本については個人的にとても思い入れがある。これは私が初めて読んだマンガだから。今回読み返してみて、細部はほとんど覚えていないが、真実の口の場面をずっと覚えていたことを思い出した。映画はそれを追体験する形で見た。
大人の目で読んで、この本が変わらない魅力を今も持っていることに驚いた。印刷物から復刻された線は完璧とはいえない。当時の印刷技術はもちろん、ペンや紙やインクも今ほど質がいいわけではない。収録されている作品のうち「ローマの休日」に限って言えば、スクリーントーンはおろかアミかけすら無い。全て手描きだ。そして背景は資料を使わず描かれているのではないかと思う。
それでも、王宮は王宮だし、ローマの町はローマだし、王女は王女に見える。髪を切った王女は元気な女の子に変身する。それが実現できたのはは水野英子さんの才能があればこそだけれども、紙とペンがあれば、どんな世界も描けるという当時の熱気を感じる。楽しい物語を描くことが何のてらいもなくできた、それを読むことができた時代があったんだなと思い出した。
ところでこのシンプルでそのくせ味わい深い作品は、いろいろな要素が混ざってできている。まず、元ネタの映画『ローマの休日』。それを漫画化した水野英子さんの作風。そして手塚治虫風の画面処理とかギャグ。映画はオードリー・ヘップバーンとグレゴリー・ペックの2人が主役でロマンチックコメディの映画として素晴らしい作品だが、この漫画は映画を忠実に漫画化している。カットしてある場面もあるけれど、129枚できちんと映画と同じ味わいを感じさせる。それなのに同時に水野作品でもあるのだ。王女が星に願いをかけている大きなコマがひとつあるだけで、それは水野さんの作品の全てを思い出させる。私は手塚作品については詳しくないが、ギャグ処理の絵や演出は、これはどうみても手塚風だろうと思わざるをえない。
私はこの作品がすごく好きだった。復刻版を読むと当時のわくわくどきどきを思い出すし、今読んでも十分面白いと思う。
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