2008年3月に多摩、4-5月に新宿・秋田で公演されたわらび座ミュージカル『火の鳥』の中から抜粋してレコーディングされたCD。作曲は、ミュージカル『エリザベート』の音楽監督などで知られる甲斐正人。手塚治虫の原作の世界やキャラクターの心情を音の世界に反映させようとしてか、素朴でありながら、アレンジに細やかな工夫が見られる。技術的には決して難しかったり派手だったりするメロディではなくBW系ミュージカルに慣れた耳には物足りなく感じられるかもしれないが、実際の舞台を観れば、これらの曲がそれぞれのシチュエーションに置いて的確に言葉を伝えてくることや、作品の和の魅力も感じられるだろうと思う。 惜しむらくは、碓井涼子(速魚)の『太陽という名の』が入っていないことと、入っていないにも関わらずパッケージ裏面に誤植されていること。実際には『太陽という名の』は入っておらず、『瀕死の速魚』が入っている。
作曲者の和田薫氏は純音楽の作曲家であり、映画・アニメ・舞台の劇伴音楽でも知られる人物です。中でも『犬夜叉』『SAMURAI-7』など和風物・伝奇物の音楽は特筆すべきものがあります。ヴォイスドラマは見たことがありませんがサントラだけでも良い作品だったことが伺えます。手塚治虫氏の『火の鳥-鳳凰編』の原作を知って入れば大体の情景は浮かびます。挿入歌も見事な出来で、人物・作風を良く表しています。圀布田マリ子さん演じるブチの「旅は続く」は単曲でも聴きごたえがあります。感想としては、おそらく声優の演技で情感の動きを見せるためでしょうが、他の和田氏のサントラと比べると抒情性・躍動性は控えめで、大人な曲作りに感じます。注目したいのが「苦しみの茜丸」です。茜丸は某アニメ版では「善人だったのに権力に溺れて堕落した愚かな人物」という短絡的な解釈で描かれおり、その認識が『火の鳥 鳳凰編』全般のレビューなどでも浸透しているようで、残念に思っていました。その点「苦しみの茜丸」は本意ではない権力のしがらみにもがき苦悩している悲哀が伝わる良曲です。『火の鳥-鳳凰編』の空気が好きな方、和田薫氏の作風が好きな方は聴いて損はない曲目だと思います。
第4巻の舞台は、奈良時代の日本です。 奈良の大仏建立を軸に二人の彫刻師の人生が対比されてゆきます。 浄土真宗の開祖、親鸞聖人は「悪人正機」を著しました。 現在でもその解釈を巡ってしばしば論争の種になります。 極悪人、我王。彼は幸福な両親の下に生まれますが、事故で不幸を背負い込みました。 冷遇され続け、こころは捻じ曲げられ悪に染まってゆきます。 若き天才彫刻師、茜丸と偶然出会います。 二人の運命は交錯しながら、悟りと我欲を繰り返してゆきます。 『火の鳥』は仏教の輪廻転生が根底に流れているテーマですが、第4巻ではそれがはっきりと打ち出されます。 仏の説いた、色即是空の真の理解へと物語は進行してゆきます。 恐ろしいまでの奥行きを持った作品でした。 第3巻の『ヤマト編』を受け継ぐストーリーでもあります。 『火の鳥』は、読み終えてしばし陶然といたします。 本当に凄い漫画です。
当時原作本をたくさん出していた角川のメディアミックス戦略で制作されたアニメ映画だったと思う。絵が違うなど云々以前に、「鳳凰篇」のダイナミズムあふれるシナリオを十分に生かしきれてない尺の短さ。2時間以上の大作として作るべきだったと思う。劇場では見なかったが、当時のCMだとアニメ映画「時空の旅人」と同時上映という形になっていてこちらは2時間位だったと思うが上映時間を逆にしたほうがよかった気がする。 この後、OVAで「ヤマト篇」「宇宙篇」が同じ製作会社のスタッフで製作されたが、これらも原作を読み直せば物足りなさを覚えるかもしれない。 けれども、後年NHKで製作されたTVアニメ版「火の鳥」よりはこれらの作品のほうが だいぶ面白い。
原作と比べると、ストーリーを大幅に端折っている。
原作が輪廻転生を説く話とすれば、アニメ版は我王と茜丸、2人の彫物師の対決の話といったところか。…が、あの奥深く長い話を無理やりアニメで説明するより、バッサリ切り取って我王と茜丸だけにスポットを当てたのは成功と云えよう。
最初から最後までテンポよく進み、かつ絵は(キャラクターに時代を感じるものの)実に丁寧で、80年代に製作されたアニメの中では郡を抜いている。
原作の理屈っぽさが好きな人には物足らないだろうが、頭を空っぽにして2人の彫物師の生き様を見ていると最後に涙が溢れてくる味わい深い名作。
|