芥川龍之介を知らないひとはいないだろう。直木三十五を知らないひともいないだろう。 芥川の小説を読んだことのないひともいないだろう。しかし、直木の作品を読んだことのあるひとはどれだけいるだろうか。 直木の甥にあたる植村鞆音氏のこの伝記を読むまでは私も直木の小説をひとつも読んだことがなかった。本書に触発されていくつか直木のものを読んでみた。実に軽妙、洒脱、ユーモアに富んでいて面白い。 彼の死後80年近く経つ。読まれなくなったのは敗戦で剣豪物や仇討ち物が読まれなくなったことと関係あるだろうが、もっと読まれるべき作家だと思った。 さて本伝記である。直木の43年の短いが波乱万丈、本能のおもむくまま、好き勝手に生きた生涯が初めて明らかにされる。こんな人物が親族や友人にいたら大変な迷惑をこうむるだろうと思うが実に魅力的な人物像が浮かび上がってくる。本書ももっと読まれるべき本である。
薩摩のお由羅騒動を題材とした幕末の物語。 近代化のアンチテーゼとして呪殺をガジェットに使っているので、伝奇小説と評する人もいるが、今に至る時代小説の原型を成す名作と思う。 島津斉彬、久光、西郷、大久保などの有名どころから、江戸っ子掏摸、講釈師、常磐津の師匠など、今からみれば登場人物が類型化されていると感じるが、それはこの作者が造型した故か。 ストーリー展開は、決して勧善懲悪ではなく、登場人物の心理描写も豊かである。 これが電子版で読める時代が来るとは、嬉しい限りです。
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