「こんなに空が青くては」は、川村ゆうこのデビューアルバムである。 泉谷しげる、井上陽水、小室等、吉田拓郎が設立したフォーライフ・レコードの 第1回新人オーディションで見出され、吉田拓郎作詞作曲プロデュースで 「風になりたい」でデビューしたのが川村ゆうこだった。
この「こんなに空が青くては」に参加したプレーヤーを見ると、石川鷹彦や 高橋幸宏、吉川忠英、等々綺羅星のように並んでいる。 いわば、「フォーライフ・スーパーセッションfor川村ゆうこ」といった趣きで 当然プロデュースは、吉田拓郎である。
当時のキャッチフレーズは「5人目のフォーライフ」だった。
こうして、恵まれたデビューを飾った川村ゆうこだったが、シングル数枚とアルバム2枚を 残して、長い沈黙へ入ってしまう。
そして今、彼女は再び歌い始めた。 川村は言う「人生も折り返しを過ぎて、何かやり残したこと?って考えて、もう一度、歌をまじめにやってみようと思った」 デビューが吉田拓郎作品であった川村は、配信で「アジアの片隅で」、「花酔曲」、「どうしてこんなに悲しんだろう」そして 「風になりたい」を配信している。これは、復活の挨拶状といったところだろう。 復活後、いくつかのバンド等でライブを試みていた川村は、2010年7月からキーボード柳田ヒロ、ギター前田達也の サポートで本格的にライブに取り組みだしている。 幸いなことに、この3人でのライブを見ることができたが、サポート二人に支えられて生き生きと歌う川村は、素晴らしかった。 柳田と前田の演奏は、時には川村をしっとりと支え、またある時は川村を煽り立てる。素晴らしい演奏だった。
この「こんなに空が青くては」には、2曲3人の演奏が収められている。 “伝説の”という形容詞が着く柳田は、「しばらくは、この3人で演奏して行こうと思う。音を足すということは、意外に簡単だから この3人でキッチリ音を作って行きたい。」その言葉通り、ここに収められた『風になりたい』は、叙情的で優しく響いて来る。 まるで、この歌にはこのアレンジしかなかったかのように。。。。 未発表だったオリジナル『輝きの瞬間』もまた、長い沈黙の後、川村が提示する今の姿にふさわしい仕上がりになっている。
デビューアルバムは、そのアーチストの原点である。川村が自分の原点であるこのアルバムに、今の自分をボーナス・トラック として収録するということは、再出発にこれ以上ふさわしいことはないだろう。 それは、原点を見つめなおして、そこへ戻るのではなくそこから更に出発していくという意思表示に思えるからだ。 川村には、未発表のオリジナルが数多くあるという。こうして、デビュー・アルバムが再発された後は、いよいよ今の川村ゆうこ、 そのものを見せて欲しい。 「5人目のフォーライフ」は、今「ひとりの川村ゆうこ」へと向かっていくだろう。
5人目のフォーライフは、一人の川村ゆうこへと向かうだろう。 前回、川村のデビューアルバム「こんなに空が青くては」がCDで復刻されたときの レビューに、僕はそう書いた。 2009年から久しぶりに歌い始めた川村は、ようやくここに今の川村ゆうこを提示してく れた。 2010年7月から、柳田ヒロ、前田達也とライブを積み重ねてきた川村だったが、なか なかレコーディングの機会に恵まれず、ライブで力を蓄えることに専念していたよう だ。 タイトル曲である「愛は君に姿を変えて」については、川村らしいエピソードがある。 ある日3人でのライブが終わり打ち上げとなり、前田がこの曲を弾き語ったという。 そう、この曲は門谷憲二作詞、前田達也作曲なのだから、前田が歌うのは当然。 しかし、この曲を聴き終わった川村が、「あんた(前田)には似合わない。あたしが 歌う!」と強奪したというのだ。以来この曲は、川村のライブで重要曲になっていっ た。 昨年10月、渋谷を歩いていた門谷憲二さんは、とあるライブハウスに、フラっと入っ てみた。そこには、川村、柳田、前田が居た。満員ではあったが、お店の計らいで席 に座ったとたん、「愛は君に姿を変えて」を川村が歌い始めた。門谷さんはあまりの偶 然に呆然としたという。ところが、入ってきた門谷さんを見て前田は「川村が呼んだ 」と思い、川村は「前田が呼んだ」と思ったという。全ては偶然なのに・・・あるいは 川村の天然が・・・ 偶然なのか、はたまたこの歌の持つパワーのなせる業なのか。
川村は、柳田・前田とライブを行っており、ドラムレス、ベースレスという一風変わ った編成になっている。「音を足すことは、いつでもできる。今は3人できっちりと した音作りをしたい。」これは、柳田が2010年7月のインタビューで発言した言葉で ある。その片鱗は、例の復刻版「こんなに空が青くては」に収録された「風になりた い(ピアノバージョン)」にも現れている。私達の耳に馴染んだ川村のデビュー曲では あるが、当時のフォーライフ人脈が総出で厚いサウンドを作り上げていた。だが、「 風になりたい(ピアノバージョン)」での柳田のアレンジ、イントロのピアノの美し さはどうだ。ドラムレス、ベースレスを全く感じさせない仕上がりになって胸に迫っ てくる美しさだ。 そして、今回レコーディングに当たって、いよいよ「音を足す」ことになったわけだ。 ベースに江藤勳、ドラムスに田中清司、曲によってはバイオリン有働皆美、コーラス 東郷昌和が加わる。 全曲のアレンジは、もちろん柳田ヒロで、すばらしい仕上がりになっている。プレス キットには、「川村のJAZZYボイス」とある。 JAZZもそうだが、もはやジャンル分けは何の意味も為さない。 これが、今の川村ゆうこなのだ。 確かなことは、このアルバムが川村の今であり、これからの音楽性を示したものだと いうことだろう。フォークソング、ニューミュージックという言葉にも苔が生え、J −POPという言葉が跋扈する今、 このアルバムは、川村ゆうこの今を提示すると同時に、「折り返しを過ぎた」新しい水夫 たちへの応援歌であり、慰め・癒しとなるだろう。
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