重層的にいくつもの恋愛関係が絡まり合うが、圧倒的な 筆力がそれを感じさせない。愛憎にまみれた話なのに、 鬱々とせず、華麗。 本のタイトルは「嫉妬」であるけれど、女性が読むと、 女主人公の焦燥感や嫉妬とその相手の男よりも、女主人 公の娘と女主人公の関係に目が行くのではないだろうか。 ただの恋愛小説では、ない。
●心霊アプリ 心霊写真が撮影できるというスマートフォンのアプリで 冗談混じりにいろいろな人の写真を撮っていく話。 悪い筋書きではないが、ベタすぎて展開が読めてしまうのが残念。
●来世不動産 人生を終えた男が来世はどんな生き物として過ごすかを不動産屋に紹介してもらう話。 今回一番のヒット。ネタは単純だが役者のノリと雰囲気で惹きつけられる。
●蛇口 身近な人に命の危険が訪れると、不思議な蛇口が見えるようになる男の話。 先の展開は読めるし、登場人物に魅力はないし、 蛇口が見える設定がほとんど活きていないストーリー。かなりイマイチ。
●相席の恋人 喫茶店で相席してきた老人に「恋人だ」と打ち明けられる女性の話。 そもそも喫茶店で相席を頼まれる、という設定にかなり無理があるし、 凝った設定にした割に何も面白くないシナリオ、 主人公と違って観ている側はそれほどスッキリしない結末。
●ヘイトウイルス 他人への憎しみや暴力がウイルスによるものだという世界観の話。 設定自体は悪くないが、気を持たせすぎる役者の演技と あまりにもつまりないオチが厳しい。
表題作「情事」は森瑶子38歳の時の処女作でありすばる文学賞を受賞した作品である。 37歳時、作者は自分自身に絶望してた時期、版画家池田満寿夫が芥川賞を受賞したこと を知り、それに刺激され書くきっかけになったという。 本書は主人公洋子が若さへの不安から奔放な性に駆り立てる物語である。情愛に対する 欲望と飢えが巧みに描写されており、まさに森瑶子の世界、夏を基調にした作品で冒頭 の「夏が終わろうとしていた」は印象的な一行である。
私は森さんの作品の大ファンでした。小説は勿論ですが、特にエッセイが大好きでした。
バイオリンを習っていた少女時代、イギリス人の夫、インターナショナルスクールに通うハーフの娘達、軽井沢の別荘、数々の海外旅行…そして森さん独自の美意識で書かれる男と女の関係。 どのエッセイもうっとりしながら読んだものです。
森さんの死後、少しでも彼女の事を知りたいと思い本書を手に取りました。
家族ならではの微笑ましいエピソードもあるのですが、夫アイヴァン氏の生い立ちや結婚の経緯、金銭トラブル等、初めて読む衝撃的な内容もいくつかありました。正直、これは知ってしまっていいのだろうか…という感じです。 著者が意図していないにも関わらず、暴露本のような印象を受けてしまいました。
なぜ森さんが敢えて書かなかったのか−その理由を汲み取るには著者自身がまだまだ若かったのかもしれません。
ただ、敏感な年頃に自分のプライベートを(おそらく金銭的な理由で)散々書かれた著者マリアさんは、どんな気持ちだったのだろうかと思うと複雑な気持ちになりました。
また,辛口かもしれませんが日本語として非常に拙い文章が何カ所かあり、読みづらかったです。
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