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久世光彦と向田邦子、というより、
久世光彦の創作の背後に、
 どれだけ向田邦子の影(影響というより)があったか、
 といったことを描いた本。
 
 なかでも、
 向田さんの亡くなったあと、
 山口瞳と久世さんの確執というか、
 向田さんをめぐっての意地の張り合いというか、
 あいつには、とられたくない、という競い合い(?)
 は面白かった。
 もう亡くなった人、独占しようもないはずなのに…。
 
 久世ファンは読んでおきたい。
 
 
   
美しい文章で語られる、ホテルに滞在した江戸川乱歩の数日間。しかし、取っつきづらさはない。どこかユーモラスで、江戸川乱歩の人間臭さが伝わってくる。人間として共感したり、作家として、やはり凄いなと思ったり、乱歩の人となりに魅了されて読み進めると、作中作のおもしろさとともに(かなりのエロスだが、女性でも抵抗ないかも)、隣の部屋に関するちょっとした謎が提示され、楽しく読み進められた。あえて文句を付けるなら、このタイトルも、雑誌掲載中に付けてあったというタイトルも、この作品の奥行きの深さやユーモアやエロスなどがまったく伝わってこない。もうちょっといいタイトルはなかったのかなあ。
 
 
   
全部で9章からなるオムニバス。乱歩の挿絵を描いた竹中の「陰獣」や、ビアズリーのサロメ、武者絵の伊藤彦造等の、太陽より月の光の下で見るような「怖い絵」とともに語られる、どこか倒錯的な性の記憶。勿論綺麗な口絵入り。軽いよみ口です。
 
 
   
私が感情移入できる人物はやはりいないものの、短編として切り取ったシーンにそれなりの意味を見出せましたし、伝えたいことが言葉の意味からではなく、伝わってくることに作品の質を感じました。 
 
 中でも「残塁」と「桃の宵橋」は好きです。特に「桃の宵橋」の娘、母、父の関係ととある仕事の関係が、非常に面白かったです。
 
 
 ただ、「桃の宵橋」を除く短編の主人公(男、さえない、泣き言多い、都合よ過ぎる、流されやすい)がちょっと。また、そこに作者の影や、佇まいみたいなものまで感じ取らせるので(表題作「乳房」は有名な奥様の事を連想させずにはいられないでしょうし、ある意味チープな同情を呼ぶ話しに、また自分に都合良い話しなってしまっていて何だか悲しい)そこらへんをどう考えるかで評価が分かれるのでしょうけれど、私個人の感想は、伊集院さんの個人的な歴史を無いものとして考えても、どうしても自分を割合棚に上げての哀愁を感じさせる、つまり少し自分に酔ってしまった感じがしてしまうところが少し気になりました。もう少し上手く隠すことで伝わる何かがあったのではないか?と。また、主人公を女にして「桃の宵橋」が書けるなら、もっとできたのでは?と思わずにはいられなかったので。
 
 
 それでも、読んで良かった短編集です。大きな出来事の後に残る、言葉に出来ない何かを思い出して見たい方、少し弱ってる男性にオススメ致します。
 
 
   
3月2日に急逝された久世光彦さんが演出された、終戦記念ドラマシリーズです。
久世さんが手がけられたこのドラマシリーズでは、戦争はあくまで背景として描かれていて、ここでも主役は「家族の日常」です。
 戦時下でも変わらない心のふれあいと微妙なずれが、久世さん独特の美意識によって色彩豊かに描かれています。
 
 このシリーズで一番印象に残っているのは、「蛍の宿」のラストシーンです。
 戦争が終わった日の午後、まばゆいばかりに輝く海に向かって末娘役の田畑智子さんが砂浜を駆けて行くシーンは鮮烈でした。
 「いつか見た青い空」のラストのナレーションも感動的でした。
 ・・・・・あの日の空は青かったと誰もが言います。何かが終わったのか、それともこれからはじまるのか、私にはよくわかりませんでした。私たちは四人で青い空を見ていました。いつまでも、いつまでも・・・・・。
 ナレーターの黒柳徹子さんは読みながら声をつまらせ、涙を流されたそうです。
 
 戦争を体験された世代としては、久世さんの世代が最後になるのでしょう。
 戦時下の人々の暮らしを身近な日常として描くことは、後の世代の作家には出来ないことです。
 そういう意味でも、この作品が素敵な装丁のDVDとして残されることを嬉しく思います。
 
 あらためて、久世光彦さんのご冥福をお祈りします。
 そして、ありがとうございました。
 
 
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