レコ初ライブの”予習”のために、高知のshopから早々に郵送してもらったのだが、最初の印象は正直、録音が粗野(=マイルドでなく)旋律にほとんど必然性を感じない類の”音”であった。 嗚呼とうとう彼女も向こう岸に行ってしまったのかな、才能の枯渇かな、と落胆してしまったのだが、
まったくの早計であった。繰り返し聴くにつれ、だんだん自分のものになってきて、これは今までの延長線上に昇華したものであることが理解できた。ライブに臨むにあたり”予習”した甲斐はあった。彼女のライブは後半に行くにつれ、声に魅力が増える。アンコールのお決まりの”ソリダスター”と”てろてろ”を朗々と歌う彼女の訴求力は確実に成長している。
矢野絢子4thフルアルバム。メジャー復帰作(現在は契約終了)で、やはり音が多彩だと思います。そして従来の独特な内省的世界観はそのままに、そのテーマをめぐる旋律が徐に温かみを帯び始めた作品です。 今までは、うす暗い和室で紡がれた織物のような、儚さや無垢さに独特の美しさがありました。今作はその障子戸の向こうがほのかに明るくなり、音楽に光が当たっていく質感です。また歌詞を追ってゆくと、 各楽曲のヒロインたちが成長しているように思えました。それも『あいのうた』と名づけられた今作です。各曲にその断片が散らばっておりヒロインにとっての“あい”の視線が注目です。
そして今作も素晴らしい発声。腹式を使い持続力ある息の制御と、頭蓋をカーンと響かせ、音をまっすぐのばし、ピッチは非常に明るく鳴らしながらも、どこか影を感じさせる歌声です。そのこえを幹にして、 今作も見逃せない名曲が収録されています。先ず挙げるべきは素晴らしい楽曲、4「青い煙」ですね。これこそ矢野絢子の世界観に光が差し込んでいる曲に思えました。旋律の美しさ、最後のピアノ1音による余韻に 至るまで大変素敵な曲です。また歌い方でも聴き所が多くあります。“♪青さを”の助詞で最後まで音程が下がらず、ほのかな明るみをのせるところ、また“♪ごめんね”の難しいE母音でどこまでも響きが広がる点などです。
一方、矢野絢子の音楽独特の、孤独や行間を感じさせる特徴は今作でも大いに発揮されています。特に3「笑顔」のような静かな間合いの中に、聴き手が自身の記憶の彼方へ往けそうな彼女独特のトリップがありますね。 矢野絢子の音楽が宿してきた“郷愁”が我々を心地よく懐かしい昔へ迷い込ませるんでしょう。何か8ミリフィルムのような温かみある映像で、昔の記憶が見えてきます。それが夕焼けに染まるのが10「恋」。 ヨド物置のCMに使われているサビもいいのですが、そこへ行き着くまでのコンポジションも非常に優れている曲です。この曲から矢野絢子を知った方は是非、全作集めてみてください。こころの財産になる曲がたくさんあります。
他にはピアノロックの1「愛の迷路」、5「札付き」など、レトロな残照が良く合う矢野はロカビリーもよく似合いますよね。いや誰よりもかっこよく似合うかもしれない。
ミニアルバム「浅き夢」は一寸実験的過ぎて散漫な感じがして、正直本作品が失速しているのではないかと心配でしたが、要らぬ心配でした。「ナイルの一滴」を良い意味で継承している作品です。 彼女の歌は、改めて実感したのですが、他のレビューにもあるように 好き/嫌いがはっきり分かれるようですね。だからここで「ここが良い」などと書いても無意味なようにも思えます。「ここがたまらない」部分が「ここが耐えられん」になるようみたいですので・・・ 少し、変化が見えたのは、日本語にしか表現できない世界/歌詞を模索しているような・・・そんな印象を持ちました。
ただ私のイマジネーションが決定的に足りないのか「ふたつのプレゼント」の下記の部分が想像できないのですが、事情に詳しい方どなたかコメントでご教示いただけませんか・・・
●「小学校も終わるころ父さんは煙になった」・・・死んでしまったと理解しているのだが? ●「母さんの体を拭き、包丁をしまって外に飛び出した」・・・とくに体を拭きが??? ●プレゼントは父親からだと理解しているのだが、生きている?死んでいる?
瑣末なことかもしれませんが気になって仕方ありません。お願いします。
矢野絢子さんの最新フルアルバムは、相変わらず素晴らしい楽曲に満ちあふれていました。 「道玄坂を転がり落ちて」に溢れる、繊細な情緒と、しかし単なるセンチメンタルでは終わらない 歌詞と楽曲の力強さ、そして歌唱力は矢野絢子さん独特の魅力であり、アルバム全体の構成もまた、この 繊細さと力強さの驚くような同居によって成立しています。 心洗われる曲の中に、世相を反映したメッセージ性にはっとさせられる歌も多く、 優しさと意志の力強さが両立した数々の名曲が心を打ちます。
特に「露草」の優しさと先鋭的なメッセージ性、歌唱のスケールの大きさには心打たれました。 珍しく矢野さん作詞作曲ではない「春吉」の収録もまた新鮮であり、 ここの楽曲はもちろん、アルバムとしての完成度も非常に高い、 「買って良かった!」と思えた一品でした。
とにかく声が印象的。どこか中性的で芯があって強い意志を感じさせる。 その歌唱力が彼女の描く歌詞世界(天才的!)に説得力を与えている。 ミディアムテンポの切ない曲にも軽快な曲にも共通するのは、祈りにも 似た彼女の想いが真っ直ぐに伝わってくること。人間の弱さやそれゆえの 美しさを見つめる彼女の視点は詩人として天才的といえる。物語の語り部 として一つの椅子の一生を歌った“ニーナ”が素晴らしい。また全体的に シンプルなアレンジも彼女のうたを引き立たせている。 日本人の琴線・涙腺に確実に響くメロディと歌詞。こういう作品はきっと 何年経っても色褪せない。
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