一つひとつの謎解きが、ページ数の問題なのか、最後にさらりと展開されている。凡百の推理ものなら、各々が大部の著作として扱われてもよいようなものである。探偵が右往左往しながら、引っ張ってもよい気がするが、作者の体力問題なのだろうか。
2008年に出た単行本の文庫化。 1998年からの十年間に発表されたノン・シリーズの短編10本が収められている。個別の作品は雑誌発表後、『大密室』『不透明な殺人』『不条理な殺人』などのアンソロジーにも入っているので、ひとによってはほとんど読んだことがあるなんて可能性も。私も半分くらいは既読だった。 おさめられているのは、「使用中」「ダブル・プレイ」「素人芸」「盗まれた手紙」「イン・メモリアル」「猫の巡礼」「四色問題」「幽霊をやとった女」「しらみつぶしの時計」「トゥ・オブ・アス」。 きらりとアイデアの光る秀作が多い。 「猫の巡礼」が変わっている。愛猫家は読まない方がいいかも。 表題作「しらみつぶしの時計」は、恐ろしいほど論理的ではあるが、面白いかどうかと言われるとなあ。
表題に「ノックス」とあるのである意味当然かもしれませんが、それなりのミステリへの知識が求められますし、ミステリファンでない純粋SFファンでは本質的に楽しめないと思います(そんな人がいてもこの本のタイトルには惹かれないと思いますが)。
色々なミステリ読書の積み上げなくこの作品から読んでしまうとポカーン( ゚д゚)となってしまうでしょう。すなわち古典的なミステリの系譜、とりわけA・クリスティの代表作(そして誰もいなくなった・アクロイド殺し・カーテン等)やノックス、ヴァン・ダイン、のことを知らないと殆ど盛り上げれないと思います。
逆にそれらをきちんと読んできた人や古典ミステリファンにとっては、本書は単なるミステリSFにとどまらずとても素敵なオマージュになっており、さらに「ノックス・マシン2」はGoogleとブラッドベリを固めたようなサゲで、本好きとしても琴線に触れる作品になっており、ハードカバーで買った価値があったと思います。
ちなみに、「バベルの牢獄」、だけが異色で、これは結構SF色と実験色が強いので、ちょっとこの作品集からは浮いてしまっていますね。途中のインターミッションとしてはよいですが、それでも読みながらちょっと苦しかったです。
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