大好きな『ベルリン・天使の詩』のヴェンダースの作品。
人と人が愛し合って家族になって、でもそれで一体どこに辿り着くんだろう?
そんな事をふと考える。
誰かの近くにいることを許されるなんて幸福だ。
でもふと、何かの際に思うことがある。私も、私の大好きな人も本当は独りずつ生きているんだと。どんなに心を許しあった気がしていても他人なんだと。完全に理解する事などできない。自分を理解するのだって難しいのに。
言い争ったり喧嘩をしたりしなくても、たとえば深い青い空を見たとき、たとえば歯ブラシが寂しく立てかけてある時。遠くから自分を見つめ何もかも抱え込んだまま何処かへ彷徨ってしまいそうになる。
決して人には(自分にさえ)触れられない場所が心の奥底にはある。外の空気にさらされる事なくたくさんの蔦が絡まり花が咲いている…あるいは砂漠のように果てしなく乾いた場所。他人どころか、自分にさえ迷宮のその地。
そんな場所に迷い込んでしまったら私は戻ってこれるだろうか。
…誰かが私を見付けてくれるだろうか。
史上最高の映像詩。それはダミエルとカシエル、2人の対照的な天使の視点で描かれるベルリンの壁崩壊以前のベルリンの人と風景が織り成す叙事詩だ。もう20年以上前の映画か。モノクロ映像ゆえか、時間の流れの中で決して色褪せない普遍的な価値を持つ、映画芸術の一つの極北。
時間の流れからは超越して、人の心を自在に読み取りながら、ただ人の営みを記録をしつづけるだけの霊的存在としての天使。彼等の姿は純粋さをもった子供にしか見えない。そんな天使の宿命に逆らって、サーカスで踊る一人の女性に恋をし、有限の時間の中に降りて行こうとする天使ダミエル。それを友情のうちに見守りながら、自らは彼岸にとどまる天使カシエル。そしてダニエルを導く優しき堕天使ピーター・フォーク。遂にダミエルが天使であることをやめたとき、彼等にはどのような運命が待ち受けていたのか。
この映画はそんな彼等の、交叉する眼差しの映画である。天使としての超越的な眼差しで俯瞰される歴史の流れ、現代の様相、日常生活を送る市民の心の悲哀、そして天使の視点が人間の視点になったときに初めて気付く(そう、ここで映像は唐突にカラーになる)、色彩の美しさと現実のもどかしさ。この人間と天使の間を自在に行き来する多様な眼差しをもって、ベルリンという都市の重層的な構造をあますことなく描いて行く。一つの都市を描いた映画は数あれど、名所旧跡を描かずに、これほどまでにその都市の内的深遠を探った映像はあまり例を見ないのではないか。
映像の特徴的な主題が眼差しなら、エクリチュール(文体)の特徴は詩だろうか。ダミエルが語る天使の詩、老人ホメロスが語る人間の詩、名も無き市民達のモノローグ、相互に独立しながらも、強い印象を残して、映像に独自の味付けをしていく。この映画にはダイアローグは数える程しか無い、基本一人語りが重なって作られていく、それはとある現代音楽の構造を思い起こさせ、そして又私達に、モノローグの美しさ、詩の強さをはっきりと印象づける。
”詩”と書いて”うた”と読ませる日本語のタイトルも、映画の本質を捉えていて秀逸。”歌”というにはあまりに儚く静かで、かといってただの”詩”には終わらない情熱を秘めたこの詩。鑑賞していると、いつまでもこのポエジーに漂っていたい、そんな気持ちにさせられる。DVD発売でそんな贅沢も可能になった。私の人生、いったいこの映画と何時間を過ごしてきただろうか。
この映画を見ていると、行った事のないベルリンが、まるで心の故郷のような懐かしさをもって感じてられてくるから不思議だ。その奇跡のような完成度の高さに5点満点献上。本作の続編やアメリカ版もあるが、こちらはとりあげる価値無し。そう、本当によい詩は、ただ一つだけあればそれでよいのだ。
ベルリンには、統一前から何十回と旅行している無類のベルリン好きですが、 中村さんの著書は、ブログも含めて、私の中では、No.1です。
その理由として、 ・街に溢れる「チャラ本」でないこと、(言葉悪かったですが、、) ・ジャーナリストたる中村さんの文体、 ・写真の撮り方(画像)が、とにかく、いいです!
旧版をお持ちの方も、楽しめる改訂版です。
旧版と比較して、さらに素敵になった点は、 ・行くたびに進化するベルリンの現状にアップデートされていること、 ・素敵な画像を大幅差し替えたこと、 ・中村さんの大好きな?カフェ情報も、かなり増えたこと、でしょうか。 ・レイアウト的にも、お店情報をまとめたのは正解でしたね、
私個人的には、ベルリンは、パンの街ですので、今も昔も変わらぬ、 ハンドメイドの老舗パン屋を、特集してほしかったです。
甘いパンに慣れきっている日本人には少々厳しいですが、ごく日常的な Schusterjungeも、パン屋が違えば、味も違います。 ハード系がお好きな方は、食べ比べてみてください、ベルリンはパン屋天国です。
あと、大事なことですが、今回の増補改訂版は、中村さんのコメントの通り、 奥様の協力を仰いだとあって、その変化は、随所に見てとれます。
著書の「あとがき」にも、奥様への感謝を忘れていないところも、 中村さんらしさが出ていて、好感が持てます。
ベルリンガイドブックは、徹頭徹尾、中村さんそのものだと思います。
中村さんのブログ「ベルリン中央駅」http://berlinhbf.exblog.jp/ 共々、 今後とも、楽しみにしています。
ベルリンガイドブック(増補改訂版)、 自信をもっておススメしたいです!
中村さんご夫妻、素敵なガイドブックを、ありがとうございました!
映画ベルリン・天使の詩を見られた方の多くは、サウンドがこの映画のクオリティをより高めていることにお気づきだと思う。残念なのは、この傑作CDが廃盤なのか中古でしか手に入りにくいことだ。しかも日本版はかなりの値段。値段で悩んでおられる方は、「Wings Of Desire (1987 Film) [Soundtrack, Import, From US]」とアマゾンで検索して輸入版を購入されるのがよいかもしれない。1000円程度で購入することができます。
私は、あの天使が恋する女性がトレーラーハウスの中でかけるNick Cave & The Bad Seedsのレコード(14曲目:The Carny)のかっこよさにすっかり魅了されてしまいました。なんとも禍々しいというか閉塞感たっぷりのサウンド。映画ラストのライヴのシーンに再び、彼らの曲(18曲目:From her To eternity)が流れます。
歌だけでなく、映画に登場する詩もあの低音ボイスで収録されていたり、チェロによる陰鬱なメロディなど、せつなく暗いサウンドが心にしっとり沁みてくる素晴らしいサントラです。
本日届いたので見てみましたが、映像本編のタイトルは「wings of desire」となっていたのが、少しがっかりでした。 それとエンディングに「to be continued」となっていたのも蛇足な感じです。
たしかに「far away, so close」に続くのですが、この映画は単体でも成立すると思いますので、どうも違和感を感じました。
それでも、クライテリオン版には入っていない削除シーンなどがあり、よかったです。 カシエルの意外なシーンがあり驚きます。
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