ミステリー作家の著者が、事件の深層と裁判の問題点を明らかにする〜という点で、興味をひかれて読んでみた。
ルポルタージュ的な硬質の本ではない。
本書の大部分を占める謎ときに使われたのは、被害者Mさんのブログのコメントとコメント返し。
興味深いのは、被害者であるMさんのブログや公判の証言などから、加害者・被害者の心理状態の推移と関係の変化を読みとり、推理していくスタイルという点。
今までの犯罪物の本のように、著者が足で稼ぐ、独自に聞きとったり、入手した資料で構成されていないから、硬派の本を期待すると肩をすかされそう。
この事件は、現代の日本を象徴するような事件だと思う。
どこにでもいそうな真面目で平凡な若い女性と、中年男性が出会った場所が、秋葉原の「耳かき店」。
この本を読むまで「耳かきサービス」の実態さえ知らなかったので、興味がわいて読み進んでしまった。
浴衣姿の女性に膝枕で耳をかいてもらうサービスは、その合間に手などのマッサージオプションがあり、ただお気に入りの女の子と時間単位でお話をするそう。
完全な密室ではなく、隣の部屋の会話も聞こえ、性的なサービスはない。
この店で売れっ子だったMさんを気に入って通いつめ、やがてストーカーとなり事件を起こしたのが加害者のH。
それだけだったら、今までもよくあるような事件。
この事件の場合は、ネット上のMさんのブログにおいて、常連客Y(Hの仮名)達との連日のやりとりが残っていたのが、いかにも今日的で特殊かもしれない。
二人の関係は、Mさんの店の源氏名と本名、HとHの仮名「Y」という二人四役のバーチャルな世界で起こった悲劇。
本書内の著者の裁判員制度に対する意見、判決に対する主張や批判はあくまでも個人的な感想で、その部分の記述に関しては評価はしずらかった。
ブログのコメント返しの語尾等に着目し、被害者の心理を推理している点は目新しく感じたので★4
2012年2月20日に光市母子殺害事件の裁判で最高裁が被告人の上告を棄却し、 死刑判決が確定した。との報道がありました。事件が発生してから13年目のことだ そうです。色々な面で2011年2月にテレビで放映された。『遺恨あり…』 のドラマ に重なるものを感じ、今回DVDを改めて見させて戴きました。 同じ事件を題材にした、吉村昭 著の本『最後の仇討』も読みました。こちらは、 残された史実に基づく六郎の行動にそって書かれた、推測される事項を挟まない 客感的な歴史小説であると思います。 それに対しこのドラマは、山岡鉄舟、中江正嗣、等々六郎と共に事件に係わった 人達の姿を描き込んだ人間ドラマとして、より踏み込んだものになっています。 ドラマでは重要な位置を占める、なかと言う女性は、本の方では“最初に事変に 気づいたのは下女のなかで… ” と書かれているだけであとは一切登場しません。 ドラマの予告編で、なかは六郎を献身的な愛で支える女、と表現されています。 確かに六郎に対する愛はあると思います。しかし、なかを動かしたものは、無惨に 殺された父と母の無念を晴らそうとする、六郎と同じ気持ちなのではないのでしょうか。 六郎も自分の信条を察し泣いてくれた、なかの姿に同じ目的を持った 同志 を 感じたのではないのでしょうか。だからこそ六郎は、なかから情報を貰い金銭的 援助も受けたのだと思います。そしてそれは、「これは六郎様とうちのふたりだけ の戦いだっち」と言うなかの言葉に表れていると思います。 もうひとつ本にはない点で、六郎と敵の親族と係わりが描かれています。 終身刑を宣告された六郎が恩赦で10年で出獄できたのち、討ち果たした敵の妻 のさとに詫びる場面でふたりの交わした言葉に、感じいるものがありました。 被害者の感情が刑罰にどう反映されるか。それは現在にも通じるものがあります。 被害者が敵を討てば被害者だったものが加害者と同じ人殺しになり、かつての自分 と同じ被害者を作ってしまうこと。 罪を償うと言うことは単に刑期を勤め上げるだけではなく、被害者に本当に許して貰うこと。 人を殺したものは死ぬまでその罪の重さに耐えて生きて行かねばならないこと。 そのおり、敵 一瀬の息子が他人のことを気遣う優しい少年に成長しているのを見て 六郎は自分と同じ悲劇の道?を、歩まなかったことに安堵を覚えたのではないでしょうか。 最後は、仇討のみを目的に生きてきた六郎がそれから開放され、少しずつではあるが 人間的な普通の人生を歩み始めた様に感じました。 余談ですが、松下奈緒さん演じる、なかのきもの姿が、カメラを引いたアングルから 写し出されたシーンは、174cmの長身が映えて、まさに八頭身のすばらしいシルエ ットだったのが印象的でした。この時代こんなきもの美人は居なかったでしょうね。 長々と失礼しました。
購入して見るまで、山梨放送開局55周年企画映画だと知りませんでしたので、同県出身者として、山梨ロケは懐かしく、山梨出身の柏原収史の起用も合点がいきました。映画の中で淡々と時が流れつつ時折時間軸が交差していくのが、少しもどかしくなりましたが、西島さんの死刑囚姿は、過剰過ぎず、静かでそして重たく、何とも言えない苦しさがあとからこみあげて、よくわからないまま涙がはらはら流れ、重たい何かが心に残りました。刑の執行シーンのインパクトも頭から離れません。 山梨放送は、なぜこんなに重いテーマの作品を企画したのか、同県出身者として疑問ですが、西島さんのまた別の一面を見られた作品だったと思います。
還暦の誕生日から2ヶ月の若さで永眠された吉村達也氏の遺作。 彼の死を受け入れることができるまで3ヶ月という日数を要した私の疑問を、この作品で解決してくれた。 未完に終わったシリーズ作品の結末が知りたくてずっと待っていたが、結局どうなるんだろうという不安は残るが、最期の日を家族と迎える心構えや病人としての考え方など、いろいろ参考になった。 ご冥福をお祈りします。合掌。
吉村作品の主要シリーズ物のひとつである温泉シリーズ。 読んでいるうちに現地を旅行したくなりますよ。 ちなみに大きな伏線はプロローグから張られていますのでご注意を。
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