晩年のシフによる再録音。シフはヘンレ原典版の運指も書いた。初期のシフは、単音の音楽を軽快に情緒豊かに演奏するタイプだった。そのため、スカルラッティ、モーツアルト、ハイドン等の曲は非常に特徴的な演奏ができた。この頃は、和音の作り方はあまりうまくなかったように思う。しかし、ベートーヴェンの重層和音を扱う音楽に取り組み始めた頃から、和音の演奏方法の研究を行い、タッチ(音色)が変化し出し、そのタッチでもって各種のバッハの再録音をも行った。今回の録音も情緒感が薄れ、重厚感が増した演奏になっている。平均律の録音に限って言えば、前回の録音は、ペダルをふんだんに使い、主旋律以外は淡くぼかすような演奏だったが、今回の録音は、ノンペダルを徹底している。そのため、和音のフレージングの切断が各所に見られる。また、一部曲中でテンポが一定していないところがある。全体的な曲の構想についても、前回の録音とは全て異なっている。音質や指の置き方については、指を横からなでるような演奏ではなく、指を鍵盤の真上からまっすぐに落としたような演奏になっており、音質は、張りと深みのある音質となっている。この音質はこれはこれでいける。しかし、全体にはダイナミックに欠け、規律正しく強弱の変化に乏しいこじんまりとした感じの演奏にとどまっている。後は、各聴衆の感想に委ねたい。
いつもは、毎月、本屋の立ち読みで済ます。読む箇所はもちろん、吉田秀和の書いたものだけ。他の批評家連中にはまったく興味がない。だから、吉田氏の記事がない月のレコ芸は、私にとって価値ゼロ。そのくらい彼の文章は平易だが味わいがあるし、何といっても彼の演奏の真性を聞き分ける耳の確かさは、彼の推薦するCDを実際聴いてきた人なら誰でもわかるはず。そのくらい、みんなお世話になっているんだ。こういう人は今の日本で彼しかいない。彼ただ一人なのだ。かしら文がどうのこうのなんてのは瑣末なことだ。
やわらかな演奏でとても美しい。おちつきます。 各声部の主張は明確で、しかもおしつけがましくありません。
ロマンチッチクな響きをもったピアノと音響は、 「バッハ」とその時代のものからは、異なるかもしれませんが、 そうしたこととは別に、よい演奏だと思いますし、
当然の事ながら、曲想の移り変わりと、旋律のからみあいは、 高揚感さえ誘います。
音楽の父の言われるバッハ、そのバッハがかいたピアノ弾きならまず勉強せよといわれる楽曲において、 作曲者の作曲意図を最大限にひきだしながら、かつ現代のピアノをいかした、 厳かで繊細な演奏だと思います。
背中に電流が走るといったのとは違う、ゆっくりとした感動が身体の染み渡りました。
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