著者、森光子による「吉原花魁日記」の続編である。 前著では群馬県高崎の貧家に育った著者が、周旋屋の口車に騙されて、家族を救うために借金のかたとして身を売り、初店から一人前の花魁に育っていく過程が書かれていた。 今回は吉原と言う苦界に身を沈めての毎日の生活の中で見聞、経験した同僚遊女たちや客の生態を鋭く観察し、持ち前の筆力で事実を事細かに綴っている。 前作では主に楼主(置屋の主人)による搾取の構造を見事に分析して見せたが、本編では警察や吉原病院といった医療機関までもがぐるになって娼妓の自由を奪い楼主の搾取に手を貸している実態が描かれている。特に吉原病院に入院中の著者の見聞は、遊女たちが病気(主として性病)になった場合いかなる仕打ちを受けるかを余すところなく叙述していて読者を慄然とせしめる。 その苦界の生活のなかで著者は読書に励み柳沢白蓮(大正天皇の従姉妹にあたる)の女性解放運動家としての活躍を知り、死を覚悟して吉原を脱出、白蓮の元に逃げ込む。 白蓮の元で執筆活動を続け、前著「吉原花魁日記」を出版したあとの、楼主や元同僚の花魁たちの反応も生き生きと詳述されている。 この本はどん底の苦界で身を売って病に倒れていく花魁たちの救出に役立つためにかかれたものであるが、読物としても一級品で、それこを読み出したら一気に読ませるものを持っている。
花魁というと江戸の印象が強く、花魁自身が本を書くなんて ありえないと思っていました。 が、大正時代も花魁は江戸時代みたいな状態で しかも花魁本人が日記を書いたとは…という、 いろんな意味で意外性がある一冊でした。
貧しくても学がなくても、吉原の廓で、本と日記を支えに、 これだけしっかりした自分を持てるのか。 どんな境遇でも負けない、芯を持つ大切さを教わりました。
見終わって3分後に涙があふれてきた。 ラストシーンの芙美子や菊田の台詞をはじめ、さまざまなシーンを思い返し、励まされ、たいへん元気をもらいました。 森光子自身がインタビューで語っているように、舞台は貧しさ一辺倒の空間で、観客は現代の繁栄を忘れて暗い舞台空間に浸されます。最後にやっと成功した芙美子を描く場面でも、日夏京子に言わせているように、ちっとも幸せではないんでしょう。 しかし、お金はないし、悩み事、心配事はちっとも解消されないが、誰に文句を言っても始まらない。誰に助けてもらおうなどと考えないで、生きていかなきゃならない。 けれどもそれは、生きていること自体に感謝、などという抽象的なきれい事を言って美化することではない。生まれてきたから生きていく、生きるために一所懸命仕事をする。それだけなのですが、そういう人間のありのままの姿を見たことで、納得し、感心し、大いに励まされ、元気づけられます。 DVDで繰り返し見る度にまた何か発見がありそうで、これからも楽しみです。
特典映像のNHKスペシャルの中で、出版記念会シーンの日夏京子役を奈良岡朋子や黒柳徹子バージョンで見ることが出来ますが、どうせならラストシーンでの奈良岡版や黒柳版も特典映像に入れてほしかった。
大正に生まれ、昭和を生き抜き、平成の世も大女優として舞台に立ち続けてきた森光子さんの米寿を祝うムックです。篠山紀信が撮った「一生女優」の9ページのポートレイト、同じく『放浪記』の舞台裏を劇撮した36ページのカラー写真は臨場感の有る写真でした。そして30数名の芸能界だけでなく各界の著名人から寄せられた応援メッセージを読むにつれ、いかに多くの人から慕われているかが伺えました。
そして読み物としてまた写真集として興味深かったのは、森光子さんの激動の人生の歩みを20ページの分量で紹介した特集でしょう。国民的女優と呼ばれ、文化勲章を受賞し、前人未到の『放浪記』2000回上演という金字塔を打ち立てたわけですから、その偉大な功績も含めて語り継がれるべき大女優の素晴らしさが伝わってきました。
146ページからの年譜によれば、森さんは1920年(大正9年)5月9日に京都市中京区木屋町二条に生まれています。母は割烹旅館「國の家」を営み、従兄が嵐寛寿郎という映画の世界に入るべき道筋がついていました。 13歳の時に母が病没し、同年に父も病没し、昭和10年の15歳で映画に出演していますので、芸歴は75年以上を数えます。
戦時中の慰問では敵機の空襲にあい、辛くも爆弾の直撃に合わずに済んだという体験も書かれていました。戦後の栄養状況の悪い中、肺結核で療養し、出廻り始めていたストレプトマイシンの効用で一命をとりとめ、今に至るという生き様を知ると、確かに強運の持ち主であり、「生かされた方」の強い星を感じ取りました。
1920年生まれと言えば、李香蘭(山口 淑子)、原 節子という昭和を風靡した大女優が皆さん今も素晴らしいことに御存命です。森光子さんのように遅咲きの女優さんでかつ80歳を過ぎてもずっと舞台に立ち続けられたことを考えると人の運命と言うのはなかなか分からないものですね。
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